第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-3-2] 高校野球選手における送球イップスの捉え方と対処法の実態

栗林 美智子, 春原 るみ, 宮脇 利幸 (長野保健医療大学保健科学部リハビリテーション学科)

【序論】送球イップス(以下,イップス)とは,野球などのスポーツにおいて,突然または徐々に思い通りにボールをコントロールできなくなり,ボールを投げられない状態が続く現象である.多くの野球選手がイップスに苦しんでいるが,イップス発症のメカニズムや有効な治療方法は明確にはなっていない.そのような状況の中で高校野球選手が,イップスをどう捉えどのように対処しているかはほとんど不明である.
【目的】本研究は,イップスを経験した高校野球選手がイップスに対してどう捉えどのように対処したか,その実態を明らかにすることを目的とした.
【方法】長野県内の高校野球部23チームの選手931名を対象に,県高校野球連盟を通じて自記式質問紙を配布した.調査項目は基本的属性のほか,イップス経験の有無とその状態と対処法,イップスの捉え方について質問した.先行研究(佐藤寛,2013)より「ケガや故障がないにもかかわらず,習得していたはずの投球や送球が思い通りにできない状態が続いた経験」をイップスだと定義し,回答者自身が自分はイップスの経験をしたかどうかを判断し回答した.本研究は筆頭演者の前所属先の倫理審査委員会の承認を受けて実施した.
【結果】有効回答を得た155名のうちイップスを経験した38名を分析対象とした.回答は複数回答可とし,回答内容は以下の通りであった.イップスの原因と思うことは,精神的・心理的要因81.6%,失敗やミス21.1%,技術的・感覚的要因13.2%,周囲の環境的要因10.5%,ケガや体の状態7.9%などであった.相談相手は,誰にも相談していない44.7%,次いで同輩28.9%であった.イップスの情報源は,インターネット44.7%,チームメイト28.9%,本や雑誌28.9%,情報源は得ていない18.4%などであった.イップスを改善するために必要なことは,指導者に相談39.5%,性格や考え方を変える39.5%,精神力を鍛える34.2%,フォームの修正34.2%,チームメイトの理解34.2%,専門治療機関に相談34.2%,練習量を増やす31.6%,指導者の理解31.6%の順に回答率が高かった.実際に行ったイップスへの対処は,フォームの修正27%,精神力を鍛える24.3%,練習量を増やす18.9%,チームメイトに相談18.9%,性格や考え方を変える18.9%,経験を積む18.9%の順に回答率が高かった.
【考察】イップス経験者の多くがイップスは精神的・心理的要因が原因だと捉えており,半数近くが誰にも相談せず自分で対処しようとしていた.また,イップスの情報源はインターネットやチームメイトという不確かなものが多く,情報を得ていない者も一定数存在した.イップス経験者が必要と思っていて実際に行った割合が高い対処法は,自分自身で努力する対処法が多く,一方で周囲に働きかけるような対処法は,必要と思っていても実際には行っていなかった.イップスを精神的・心理的問題と捉えることでどうして良いかわからず対処できなかったり,必要な援助希求ができず孤立し,問題が個人化することによってさらに対処法の欠如を招いている可能性がある.作業的喪失は人の健康にネガティブな影響を及ぼし,人の作業の意味を変え,どのように日常の日課や作業を遂行するかを変える(エリザベス・タウンゼント.ヘレン・ボラタイコ,2011).多様な対処法の情報もなく,“力いっぱい野球をやる”という高校野球選手にとって重要な作業を長期間にわたって喪失した状態が続けば,健康へのネガティブな影響や部活動以外の作業もうまくできなくなる危険性がある.イップスに悩む高校生をどのようにサポートするのか対策が求められる.