第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-3-7] 肩腱板断裂修復術後の外来リハビリテーションにて家庭内役割再獲得に至った一例

佐藤 恵美, 高瀬 駿 (川崎医療生活協同組合 川崎協同病院リハビリテーション科)

【はじめに】肩関節機能障害理学療法ガイドラインでは,徒手療法やセルフエクササイズを中心とした介入が推奨されており(日本理学療法学会連合理学療法ガイドライン第2版,2021),介入研究している報告は多い.肩腱板断裂修復術後のリハビリテーションにおいても疼痛や関節可動域の改善は,セルフケアや日常生活動作(以下ADL)の再獲得に向けて重要な要素である.今回術後早期から当院外来リハビリテーションが開始となった症例に対して,機能訓練だけでなく,作業に着目し段階付けて介入したことで日本語版DASH・MALに変化がみられた.評価結果・作業内容を本人と共有し,ADL・家事動作の一部再獲得ができたため,ここに報告する.なお本報告は当院倫理委員会の承認を得ており,発表に際して対象者へ書面での説明と同意を得ている.
【事例紹介】70歳代女性.診断名は右棘上筋断裂整復術後.X-1年Y月に勤務中に右肩関節痛増悪.Y+4月に疼痛増悪しMRI検査にて上記診断.Y+6月まで保存加療していたが症状改善せず手術に至る.Y+7月に入院し鏡視下腱板修復術,上腕二頭筋腱固定術施行.Y+8月に当院整形外科受診・外来リハビリテーション開始.
開始時は肩関節外転保持固定装具着用.術後4週の固定期間が設定されていた.握力は右手11.0㎏/左手13.0㎏.息子と2人暮らしで,家事全般を役割として担っていた.また,看護助手として就労しており復職希望があった.
【経過・結果】MAL・DASHの下位項目を活用しながら作業項目のピックアップをして介入を進めた.
<第一期>術後4週より固定装具外し,自動介助での関節運動と等尺性収縮を用いた筋発揮訓練から開始.MALはAOU1.0/QOM0.9,DASH機能障害スコア50.8.夜間臥床時に疼痛あったため,就寝時のみ装具着用.また,日中の長時間下垂位での疼痛があったため,アームスリングを貸出し外出時に着用.疼痛残存しており,再断裂への恐怖心が聞かれていたため安静度が高い状態であった.ADLでは疼痛の出にくい更衣動作・洗体動作指導を行い,食事動作場面で短時間での右手使用を促した.
<第二期>開始2か月目でMALはAOU2.0/QOM2.7,DASH機能障害スコア26.7.ADLでは,第一期よりも自発的な右手使用がみられた.その他,家事動作場面では「テーブル拭き」「食器洗い」の提案を行った.外出頻度も増え,鞄や5㎏程度の重さの買い物袋も右手で持てるようなった.除重力位の自主トレーニングメニューを提示し実施.
<第三期>開始3か月目より,ローテーターカフの筋力訓練追加.MALのAOU3.9/QOM3.5,DASH機能障害スコア24.1.ADLではほぼ右手のみや両手での動作可能.家事動作場面では「料理」「食器洗い」時の疼痛緩和と動作遂行改善あり.「掃除機をかける」「洗濯物干し」に困難さが残るが,その他は概ね受傷前と同様に行えているとの発言が聞かれた.しかし復職への不安があり.業務内容を確認・模擬評価し,実現可能と想定される内容の目安を症例と共有した.
【考察】今回,MAL・DASHの下位項目を活用しながら介入を進めた.その結果,具体的な作業列挙が行え症例の意欲的な患側肢使用も引き出すことができたのではないかと考える.MAL・DASHのスコア改善は得られたが,家庭内役割である家事動作の一部に制限が残った.要因として術後の安静期間中に健側肢による動作の習慣化と,痛みや再断裂への不安感が消極的な患側肢の使用・機能回復の遅延につながった可能性も考えられる.今後は頻繁に使用する日常生活動作,患者の主観的満足度だけでなく,経時的関節可動域・肩周囲筋力の評価も生活・作業環境を含めてフォローアップしていく必要性があると考えた.