第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-5] ポスター:運動器疾患 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-5-3] 肩腱板断裂患者に対する胸椎セルフストレッチングの導入

菊地 翼1,2, 根本 剛士3, 三浦 麻里3, 高橋 恵一1, 石川 隆志1 (1.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻作業療法学講座, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期課程, 3.JA秋田厚生連大曲厚生医療センター)

[序論]肩腱板断裂は中高年に多くみられる有痛性の肩関節疾患として広く知られているが,その発生機序には不明点が多い.肩腱板断裂に対する手術療法では,関節鏡視下腱板修復術(Arthroscopic Rotator Cuff Repair:以下,ARCR)がよく行われている.ARCR後のリハビリテーション治療や効果に関して様々な報告がなされてはいるが,未だ統一した見解は得られていない.肩腱板断裂患者の後遺症として最も多いのが肩屈曲可動域の制限である.肩腱板断裂患者は肩甲上腕関節の機能が破綻し,肩腱板断裂患者は正常な肩甲上腕リズムによる肩関節運動を行えず,代償的な運動を呈することが多い.このことから肩腱板断裂患者は特異的な肩甲骨アライメントを呈し,肩甲上腕関節のみならず肩甲胸郭関節を含む,肩複合体のアラメント改善が重要となる.この肩複合体には胸椎の形態も重要であるため,本研究では肩腱板断裂患者に対してホームエクササイズとして簡便に行うことが出来るように作成した胸椎セルフストレッチングプログラムが,肩腱板断裂患者の肩屈曲動作改善に影響を与えるかについて検討した.
[対象ならびに方法]Aセンターリハビリテーション科へ外来通院を週1回以上している肩腱板断裂患者17名を対象とした.初回評価として,座位および臥位での肩関節自動・他動角度,筋力,肩甲骨アライメント,胸椎後弯角を計測した.その後対象者には事前に作成した胸椎セルフストレッチングについて十分な指導を行い,通常の外来リハビリテーションプログラムと合わせて,4週間のホームエクササイズプログラムを行うよう協力を依頼した.各対象者の開始日から4週間後に再評価を実施した.各アウトカムについてShapiro-Wilk検定を用いて分布を確認したのち,前後比較として対応のあるt検定ならびにWilcoxonの順位和検定を実施した.統計解析にはIBM SPSS Statistic 28を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は研究実施施設に設置されている研究倫理委員会の承認を得て実施し,開示すべき利益相反する企業等はない.
[結果]17名の対象者がホームエクササイズの実施率100%となり,解析対象に該当した.4週間後の結果では,座位自動屈曲角度(p<0.01),座位他動屈曲角度(p<0.01),臥位自動屈曲角度(p<0.01),臥位他動屈曲角度(p<0.05),胸椎後弯角(p<0.01)で有意な改善を認めた.
[考察]4週間後の各肢位における自動および他動肩屈曲角度,胸椎後弯角が有意に改善していた.このことから,胸椎後弯角の減少した座位姿勢により肩関節屈曲可動域の増加につながったことが示唆された.Yamamotoらは,肩腱板断裂の有病率は脊柱後弯姿勢で最も高くなるというモデルを示している.本研究の対象者も胸椎後弯角が大きい傾向にあったことから,肩腱板断裂患者の肩屈曲動作改善に対して,胸椎へのアプローチは有効な手段になりうるかもしれない.以上から肩腱板断裂患者に対する治療方略として破綻された肩甲上腕関節に対するアプローチのみならず,肩複合体のアライメントや対象者の姿勢についても考慮したアプローチが肩腱板断裂患者の肩屈曲動作改善には重要であると考えた.
[引用文献]
Yamamoto A,Takagishi K,et al.:The impact of faulty posture on rotator cuff tears with and without symptoms.J Shoulder Elb Surg 24:446-452,2015