第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-5] ポスター:運動器疾患 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-5-5] 一次修復困難な肩甲下筋断裂に対し小胸筋移行術を施行した一例

石田 優真1, 青山 俊喜1, 小佐野 宏幸1, 佐藤 真一1, 藤巻 圭太2 (1.市立甲府病院リハビリテーション室, 2.市立甲府病院整形外科医師)

【はじめに】一次修復困難な前上方腱板(肩甲下筋)断裂に対し,従来大胸筋移行術が用いられるが,侵襲性や移行腱との走行方向の乖離,術後成績など諸問題が指摘されている. 近年,これらの欠点を克服し得る術式として考えられた小胸筋移行術が実施され始めている. 小胸筋移行術は,小胸筋腱の骨腱移行部を温存したまま採取し固定するため比較的強固な固定が得られるため,早期から外旋ROMを確保出来る利点がある.しかし,まだリハビリテーションにおける治療経過や成績等の報告は極めて少ない.今回,左肩腱板広範囲断裂(棘上筋,肩甲下筋)に対し,棘上筋縫合と小胸筋移行術を施行した症例を経験した.治療経過の詳細,治療成績について報告する.
【事例紹介】70歳代男性,職業金属加工.半年前に趣味の渓流釣りに行った際に滑って転倒し受傷した.近医整形外科受診し数ヵ月保存的加療行ったが症状改善しなかった.当院整形外科を受診しMRIの結果,棘上筋及び肩甲下筋断裂と診断され,腱縫合と肩甲下筋断裂に対し小胸筋移行術を施行した. 症例に対し本研究の趣旨を説明し同意と承諾を得て,当院倫理委員会の承認を得た.
【治療経過】術前に外転装具60°設定で装具の仮合わせと,装具装着下での基本動作の指導を行った.術後翌日から,ベッドサイドでのポジショニングと日常生活動作(以下ADL)指導を行い,術後2日から挙上60°以上での他動ROMexを開始した.炎症症状や防御性筋スパズムが大胸筋や僧帽筋上部に認めた為,訓練後と病棟でのアイシングの徹底や装具装着下でのADLにおける上肢動作指導を行った.また,本術式の利点である外旋可動域の拡大を積極的に行った.術後3週から外転角度30°へ降下し,術後4週から装具除去を行うまでの期間,外転拘縮予防として訓練時のみ内転0°を確保した.術後5週で装具除去した.術後6週から自動介助運動開始,机上ワイピングや棒体操等の自主訓練指導を行った.術後7週から自動運動開始し,代償動作を生じないよう鏡を使用した動作確認やADLでの上肢参加の指導,退院時は自主訓練内容を記載し提供,動作確認を行った.術後8週から外来通院で週2回ROMexと適宜自主訓練やADL動作確認を行った.
【結果】術前ROM (Passive/Active)屈曲130°/110°水平内転100°/95°1st外旋40°/20°,日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA)57点, QuickDASH(以下qDASH)機能/症状(以下DS)68.2,仕事(以下W)100, スポーツ(以下S)100.術後8週ROM(Passive/Active)屈曲150°/140°水平内転125/120°1st外旋50°/45°JOA76.5点, qDASH D/S 11.4,W50,S50. ADLでの上肢参加が可能となった.術後12週ROM(Passive/Active)屈曲165°/160°水平内転135°/130°1st外旋65°/60°,JOA100点,qDASH D/S 2.3,W12.5,S25 .仕事復帰となり,術後16週で趣味活動が可能となった.
【考察】今回,肩甲下筋断裂に対し小胸筋移行術を施行した症例を経験した.小胸筋移行術は大胸筋移行術と違い,小胸筋腱の骨腱移行部を温存したまま採取するため,早期より外旋ROMexが開始出来る事が利点である. 松橋らの報告によると,肩甲下筋断裂(広範囲断裂)に対し大胸筋移行術を施行した3例の術後最終成績の平均JOA88点, 自動ROM 1st外旋43°であった.小胸筋移行術の本症例は術後8週の時点で自動ROM 1st外旋45°となり,術後12週でJOA100点で満足度も高い結果となった.特に外旋動作においては,早期より制限なく外旋ROMexを開始することができるため可動域の拡大ができた.また肩甲下筋と小胸筋移行腱の走行方向が近似し,骨頭を求心位に動的に固定しやすいため,良好な成績を得ることが出来たと考察する.今後は症例数を蓄積し治療経過,成績について検討していきたい.