第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-5] ポスター:運動器疾患 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-5-7] 腰椎椎間板ヘルニアにより慢性疼痛を呈した事例に対する認知行動療法を用いた復職支援

山原 英雄1, 齋藤 佑樹2 (1.広島中央保健生活協同組合 福島生協病院リハビリテーション科, 2.仙台青葉学院短期大学リハビリテーション学科)

【緒言】運動器疾患に起因する慢性疼痛は,離職や退学,欠勤,転職などの契機になりやすく,患者のQOLを低下させることが報告されている.今回,腰椎椎間板ヘルニアによる慢性疼痛により離職を経験した事例を担当した.本事例に対して,認知行動療法を用いて復職および復職に関連した作業の再開を支援したため報告する.なお,報告にあたり事例本人から同意を得ている.
【事例紹介】A氏,40代女性.介護職(2年前に休職).腰椎椎間板ヘルニア(L5/S1)を呈し他院で手術(今回が3回目の手術)後,当院回復期リハビリテーション病棟へ転院してきた.X-2年にも手術を経験しているが,術後,腰部痛が改善せずに復職を断念した経過があった.既往歴は高血圧,両肩関節腱板断裂.
【初回評価】A氏は面接評価にて,歩行レベルでのADL自立と復職,自動車運転の再開を希望したものの,悲観的な発言が目立った.活動レベルは,Functional Independence Measure(FIM)が100/126点(運動項目65点,認知項目35点).同一姿勢を保持していると疼痛が増悪するため端坐位保持が難しく,数分おきに姿勢を変える必要があった.身体機能は,straight leg raising test(SLR test)が右陽性・左陰性,感覚検査は触・痛覚が右L5S1レベル鈍麻,FADIR(FAIR)testは右陽性・左陰性.Roland-Morris Disability Questionnaire (RDQ) 12/24,Pain Self-Efficacy Questionnaire (PSEQ) 25/60点であった.
【経過】Ⅰ期(〜4週):まずは更衣・整容・清拭練習を実施した.約3週後,FIMが114点(運動項目79点,認知項目35点)に改善した.Ⅱ期(4〜9週):復職に向けた介入を開始した.“職場の腰痛予防(厚労省)“を参考に,A氏と一緒に学習する時間を設けた.休職前は,腰痛があっても無理をしてしまい痛みが増悪することが多く,また,復職に対して悲観的な発言が多く聞かれたことから,認知行動療法の自動思考記録表を用いて内省を促す時間を作り,認知の歪み及び適応的思考の可視化を図った.少しずつ「痛みが強いときは無理をせずに人に頼むようにする」等の発言が聞かれるようになった.加えて,復職のためには自動車運転が必須とのことで,運転再開に対する介入も並行して実施した. 座位保持時の腰痛の増悪に対しては,ランバーサポートクッション等を導入したところ20分の保持が可能となった.自動車の操作面では,模擬的に再現したペダルを用いて操作練習を行い,実施した.約7週後,上肢の自動介助なしでペダル操作が可能となり,入院から9週後,自宅へ退院した.退院時の身体機能は,RDQ7/24,PSEQ44/60点,その他の機能面には変化は見られなかった.FIMは122/126点(運動項目87点,認知項目35点)に改善した.退院2か月後に自動車運転を再開し,7ヶ月後に復職が実現した.
【考察】慢性疼痛は「不快な感覚・情動体験」であり(IASP),日常生活に与える影響は大きく,特に「運転」「仕事」「物を持つ」「運動」については「全くできない」「少ししかできない」状況になる者が多い(Eur J Pain ;2006).A氏の生活は,介護の仕事や自動車運転など慢性疼痛の影響を受けやすい作業が多くを占めており,今回の発症以前の経過の中で,仕事や運転を諦め,積極的になれない日々を過ごしていたことも理解できる.本報告は1事例の実践報告であり,介入内容と結果の因果関係を実証することはできないが,慢性疼痛を呈した対象者に対して,必要な動作練習や環境調整等と並行して認知行動療法を用いることは,事例自身が疼痛を適切にコントロールしながら大切な作業に関わっていくための行動変容プロセスを補助できる可能性があると考える.