[PD-6-1] 同側の上腕骨近位端・遠位端骨折に対し,一期的に人工肩関節及び肘関節置換術を行った症例の介入報告
【序論】リバース型人工肩関節置換術(以下RSA)は2014年より本邦において開始され,作業療法(以下OT)報告は散見されるがまだ多いとは言えない.人工肘関節置換術(以下TEA)は当初,関節リウマチに適応され,TEA施行後のOT報告は散見される一方で,近年増加する高齢者の上腕骨遠位端骨折に対するTEA施行後のOT報告は非常に少なく一定の知見を得られていない.また,肩関節・肘関節の二関節同時の人工関節置換術施行後の治療に関する報告は,本邦においてこれまでされていない.
今回,同側の上腕骨近位端・遠位端骨折に対し,一期的に人工肩関節及び肘関節置換術を行った症例の治療機会を得た.術後5ヶ月で患肢を使用した洗顔・洗髪動作の一部獲得に至ったため,考察を交えて報告する.今回の発表に際して当院倫理審査委員会の承諾を得たのち,症例本人から口頭と文書で同意を得ている.
【症例紹介】80歳代女性 右利き 現病歴:自宅玄関で転倒し受傷.左上腕骨近位端骨折(Neer分類:4-part),左上腕骨遠位端骨折(AO分類:C3)の診断,手術目的で当院入院.受傷7日目にRSA・TEA同時施行され,4週間ウルトラスリング固定.既往歴:腰椎圧迫骨折(受傷2年前),骨粗鬆症.
【経過および結果】術後1週目に肘関節ROM訓練,術後2週目に肩関節振り子運動・三角筋への等尺性収縮運動,3週目に除重力位での肩関節屈曲90°,外旋30°の範囲内での他動ROM訓練,5週目より徐々に抗重力位での介助自動ROM訓練を開始した.術後6週目で自宅退院,外来OTへ移行.退院時のROM(以下;自動(他動))は肩関節屈曲20°(100°),外転20°(90°),外旋0°(25°),肘関節屈曲90°(120°),伸展−40°(−25°),前腕回内30°(40°),回外90°であった.
術後3ヶ月で肩関節屈曲80°(90°),外転50°(90°),外旋20°(30°),肘関節屈曲120°(125°),伸展−20°(−15°),前腕回内30°(40°),回外90°.筋力はMMTで肩関節屈曲3,外転2,肘関節屈曲3レベル,リーチ範囲は前開きシャツの第2ボタンまでであった.既往の腰椎圧迫骨折の影響で前屈を避けていたため,両手での洗顔は困難,同様に洗髪動作もリーチ不十分のため困難であった.
ROM訓練・筋力強化を中心に外来OTを継続.術後5ヶ月で肩関節屈曲90°(95°),外転80°(90°),外旋20°(30°),肘関節屈曲125°(130°),伸展自動他動ともに−15°,前腕回内70°(80°),回外90°,筋力はMMTで肩関節屈曲3,外転3,肘関節屈曲4レベルであった.洗顔は両手で可能,洗髪は側頭部まで可能となった.
【考察】先行研究では,RSA術後には段階的にROM訓練を進め,最終ROMは肩関節屈曲120°外旋20°程度獲得される報告が多い.また,良好なROM獲得には三角筋の筋力強化が重要であることが報告されている.本症例も介入当初よりRSA・TEAそれぞれのインプラントの荷重制限や脱臼肢位といった特性を踏まえ,インプラントに負荷のかからない自動運動を中心に後療法を進めた.結果,肘関節は術後早期よりROM訓練を開始でき,良好なROMが獲得できた.加えて僅かではあるが肩関節外転筋力の向上により両手での洗顔の獲得に至った.一方で洗髪は肩関節屈曲・外旋,肘関節屈曲を要する複合運動である.TEAのインプラントを考慮すると患側に自重以上の負荷をかけることは禁忌であり,十分な三角筋の筋力強化を行えず,肩関節のROM制限と筋力低下が残存したため,頭部へのリーチが一部獲得に留まり,洗髪は側頭部までとなったと考える.一期的に同側の肩関節・肘関節置換術を施行した際には,RSA・TEA単独とは異なり,2つのインプラントの特性を考慮する必要があるため,肩関節のROM・筋力の改善に難渋しADL制限が生じる可能性がある.
今回,同側の上腕骨近位端・遠位端骨折に対し,一期的に人工肩関節及び肘関節置換術を行った症例の治療機会を得た.術後5ヶ月で患肢を使用した洗顔・洗髪動作の一部獲得に至ったため,考察を交えて報告する.今回の発表に際して当院倫理審査委員会の承諾を得たのち,症例本人から口頭と文書で同意を得ている.
【症例紹介】80歳代女性 右利き 現病歴:自宅玄関で転倒し受傷.左上腕骨近位端骨折(Neer分類:4-part),左上腕骨遠位端骨折(AO分類:C3)の診断,手術目的で当院入院.受傷7日目にRSA・TEA同時施行され,4週間ウルトラスリング固定.既往歴:腰椎圧迫骨折(受傷2年前),骨粗鬆症.
【経過および結果】術後1週目に肘関節ROM訓練,術後2週目に肩関節振り子運動・三角筋への等尺性収縮運動,3週目に除重力位での肩関節屈曲90°,外旋30°の範囲内での他動ROM訓練,5週目より徐々に抗重力位での介助自動ROM訓練を開始した.術後6週目で自宅退院,外来OTへ移行.退院時のROM(以下;自動(他動))は肩関節屈曲20°(100°),外転20°(90°),外旋0°(25°),肘関節屈曲90°(120°),伸展−40°(−25°),前腕回内30°(40°),回外90°であった.
術後3ヶ月で肩関節屈曲80°(90°),外転50°(90°),外旋20°(30°),肘関節屈曲120°(125°),伸展−20°(−15°),前腕回内30°(40°),回外90°.筋力はMMTで肩関節屈曲3,外転2,肘関節屈曲3レベル,リーチ範囲は前開きシャツの第2ボタンまでであった.既往の腰椎圧迫骨折の影響で前屈を避けていたため,両手での洗顔は困難,同様に洗髪動作もリーチ不十分のため困難であった.
ROM訓練・筋力強化を中心に外来OTを継続.術後5ヶ月で肩関節屈曲90°(95°),外転80°(90°),外旋20°(30°),肘関節屈曲125°(130°),伸展自動他動ともに−15°,前腕回内70°(80°),回外90°,筋力はMMTで肩関節屈曲3,外転3,肘関節屈曲4レベルであった.洗顔は両手で可能,洗髪は側頭部まで可能となった.
【考察】先行研究では,RSA術後には段階的にROM訓練を進め,最終ROMは肩関節屈曲120°外旋20°程度獲得される報告が多い.また,良好なROM獲得には三角筋の筋力強化が重要であることが報告されている.本症例も介入当初よりRSA・TEAそれぞれのインプラントの荷重制限や脱臼肢位といった特性を踏まえ,インプラントに負荷のかからない自動運動を中心に後療法を進めた.結果,肘関節は術後早期よりROM訓練を開始でき,良好なROMが獲得できた.加えて僅かではあるが肩関節外転筋力の向上により両手での洗顔の獲得に至った.一方で洗髪は肩関節屈曲・外旋,肘関節屈曲を要する複合運動である.TEAのインプラントを考慮すると患側に自重以上の負荷をかけることは禁忌であり,十分な三角筋の筋力強化を行えず,肩関節のROM制限と筋力低下が残存したため,頭部へのリーチが一部獲得に留まり,洗髪は側頭部までとなったと考える.一期的に同側の肩関節・肘関節置換術を施行した際には,RSA・TEA単独とは異なり,2つのインプラントの特性を考慮する必要があるため,肩関節のROM・筋力の改善に難渋しADL制限が生じる可能性がある.