第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-6-4] 自己効力感の高い左上腕骨骨折患者の寿司職人への復職に向けた介入経験

小松 諄, 菅原 梓, 菅原 竜二, 小池 靖子 (医療法人社団心和会成田リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【はじめに】Bandura(1997)は自己効力感を個人の行動遂行能力に対する確信の程度と捉えている.本事例は復職に対する自己効力感が高く,実動作練習による失敗が訓練意欲停滞を招く恐れが考えられ,実動作の分析にて訓練を行なった.その結果,訓練意欲を維持し,復職にも至った事例であり,以下に報告する.尚,発表に際し症例に内容を説明し同意を得た.
【症例紹介】本事例は70歳代男性.診断名は左上腕骨近位部・遠位部骨折,左第5-10肋骨骨折,骨盤輪骨折(左恥坐骨,仙骨).X年Y月Z日,庭木の剪定中に梯子3mの高さからの転落で受傷.急性期病院へ救急搬送された.Z+36病日目に当院回復期リハ病棟に入院.病前は家族4人暮らしで自宅兼店舗にて寿司屋を経営していた.当院入院時から早期退院にて寿司職人への復職を強く望んでいた.
【作業療法評価】左上肢の関節可動域(以下ROM)(Active/Passive;°)肩関節屈曲45/65 外転50/75 外旋10/20 肘関節屈曲80/90 伸展-45/-35 前腕回内60/65 回外80/85 手関節と手指に著明な制限は認めなかった. 徒手筋力検査(以下MMT)(Rt/Lt)肩関節屈曲4/2 外転4/2 肘関節屈曲5/3 伸展4/3 前腕回内4/2 回外4/2,握力(Rt/Lt)29.1/12.1㎏,感覚は左肘から小指にかけてNumerical Rating Scale(以下NRS)3の痺れがあった.炎症症状として左肩・肘関節周囲は熱感と腫脹,NRS4の運動時痛を生じていた.Simple Test for Evaluating Hand Function(以下STEF)(Rt/Lt)91/73点.日常生活動作(以下ADL)はFIM運動項目49/91点.洗顔・洗髪に困難さがあった.Canadian Occupational Performance Measure(以下COPM)では復職の重要度10,遂行度8,満足度6と症例からは「大体できそう.」との発言が聞かれた.
【基本方針】復職に対する自己効力感が高いため,安易な実動作練習は失敗体験による訓練意欲停滞を招く恐れがあった.しかし,筋力や耐久性を要する動作や複合的な動作では難渋することが予測された.そのため,機能改善に合わせた実動作練習を組み立てることで訓練意欲維持を図っていくこととした.
【介入】介入前期:左肩・肘関節周囲は炎症症状を認め,物理療法を併用しROM拡大を図った.介入中期:本人から「早くしないとお客さんがいなくなっちゃう.」と不安や焦りが見られた.復職動作の分析では握り,魚を捌く,専用の機器操作などがあり,本人の機能に合わせ,できる作業として握りの模擬動作から実施していった.介入後期:調理訓練で実動作を実施し,本人からは「筋力が足りないからもう少し頑張らないと.」と課題を共有でき,退院に向けて代償動作も踏まえた実動作練習を反復した.
【結果】左上肢ROM(Active/Passive;°)肩関節屈曲80/90 外転80/85 外旋10/20 肘関節屈曲95/105 伸展-30/-25 前腕回内80/85 回外90/90.MMT(Rt/Lt)肩関節屈曲5/3 外転5/3 肘関節屈曲5/4 伸展5/4 前腕回内5/4 回外5/4,握力(Rt/Lt)33/23㎏,左肩・肘関節は運動時痛を生じていた(NRS4).感覚は著変なく経過.STEF(Rt/Lt)95/95点.ADLは独歩自立となり,FIM運動項目91/91点.COPMでは復職が遂行度9,満足度8となった.ADLと復職に必要な能力を獲得してZ+128日退院に至った.
【考察】一般に自己効力感が高い程,訓練に対しては積極的に行われ,行動達成に至る患者は多い.しかし,本事例は早期の実動作練習で失敗による訓練意欲停滞を招く可能性が考えられた.そのため,作業分析にて獲得しやすい動作から必要な要素を組み立てていった.介入中期では不安や焦燥感もあったが,機能改善に合わせた実動作練習により成功体験を積み重ねることで,訓練意欲の維持に繋がり,寿司職人への復職に至ったと考える.