第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-7] ポスター:運動器疾患 7

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PD-7-1] 多数指中手骨骨折術後の総指伸筋腱癒着に対するフロッシング介入効果を示した一例

青木 啓一郎1, 池田 純2, 松居 恵美2, 佐々木 秀一3, 志水 宏行1 (1.昭和大学保健医療学部作業療法学科, 2.とごし整形外科&手のクリニック, 3.北里大学病院リハビリテーション部)

【はじめに】近年,フロッシングという手法を用いて関節可動域の増加を示唆する報告が増えている.フロッシングとはゴム製のバンド(フロスバンド)を身体部位に巻き付けて圧迫し,その状態で自動運動や他動運動を行うことで,関節可動域の増加や動作時の違和感を緩和する効果が期待できるコンディショニングツールである.今回,多数指中手骨骨折術後の総指伸筋腱(extensor digitorum communis :EDC)癒着のあった患者にフロスバンドを用いたことで中手指節関節(Metacarpo Phalangeal:MP)の自動関節可動域(active range of motion:AROM)および%Total Active Motion(TAM)の改善を認め仕事復帰に至った症例について報告する.なお,本報告に際し対象者には十分な説明をし,同意を得た.
【症例紹介と初期評価】20歳代男性,診断名は左第2〜4中手骨骨折,既往歴はなし,病前のActivities of Daily Living(ADL)は自立,仕事は美容師,利き手は右手である.X年Y月に自転車で通勤中に後方から車に当てられ受傷し,A病院にて左手の第2〜4中手骨骨折を認め,プレート内固定の手術を実施した.術後2週に外来リハビリ目的でBクリニックを受診した.診察時のAROMは示指・中指・環指ともにMP屈曲20°であった.術後3週より作業療法を開始した.介入時,外固定は解除されている状態であった.示指MP(屈曲/伸展)のAROMは22°/-20°,%TAMは64%,中指MP(屈曲/伸展)のAROMは20°/-20°,%TAMは58%,環指MP(屈曲/伸展)のAROMは20°/-20°,%TAMは50%であった.
【介入経過】介入は2期にわけて行った.骨癒合がある程度得られるところまでを前期(術後3週から6週)として,MPを中心に自動運動を実施した.介入は週2回40分とし,自宅においてもMPの関節可動域(range of motion:ROM)訓練,EDC滑走訓練のための手指自動運動を実施した.示指MP(屈曲/伸展)のAROMは30°/-12°,%TAMは78%,中指MP(屈曲/伸展)のAROMは36°/-20°,%TAMは80%,環指MP(屈曲/伸展)のAROMは30°/-20°,%TAMは79%であった.エコー所見上,手指屈曲時,近位EDC周辺のコントラストは鈍くなり,周辺組織は滑走方向へ引き攣れる様子が観察された.後期(術後7週から10週)では骨癒合も順調であり,主治医と相談の上,フロスバンドによるフロッシングの訓練を追加した.圧迫は痛みのない範囲で調整し,フロスバンドを巻いた上で,手指自動運動,他動運動を実施した.最終評価では示指MP(屈曲/伸展)のAROMは70°/0°,%TAMは96%,中指MP(屈曲/伸展)のAROMは72°/2°,%TAMは97%,環指MP(屈曲/伸展)のAROMは70°/0°,%TAMは96%であった. エコー所見上,手指屈曲時, 近位EDC周辺のコントラストは明瞭に保たれており,周辺組織の厚みの増加や滑走方向への引き攣れる様子も観察されなかった.最終的に概ね左右差なく手指のGrip & Releaseも可能となり,美容師の仕事復帰を果たした.
【考察】本来,直ちに早期運動療法を開始することが重要であるが,本症例の場合,作業療法開始時には既に2週が経過していた.その結果, EDCは既に密な癒着を形成している可能性が考えられた.改善した要因として,フロッシングは手背の全体を圧迫した状態で自動運動,他動運動を行うことが可能であり,EDCが癒着部から剥離され,EDC周辺組織の柔軟性や滑走性が向上し可動域改善に繋がったと考えられた.今後は症例数を集積し,フロッシングの有効性についてさらなる検証をしていく必要がある.