第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-8-7] 指骨骨折と伸筋腱断裂合併に対し,yokeスプリントを用い良好な関節可動域を獲得した症例

高柳 直弥1, 小泉 亜耶1, 前田 恭子1, 大村 泰人2, 篠田 裕介1 (1.埼玉医科大学病院リハビリテーション科, 2.埼玉医科大学病院整形外科)

【はじめに】
従来の手指基節骨骨折の内固定法では,早期に運動療法が開始できるプレートやスクリューが用いられる.しかし,プレート固定では,側索の滑走が低下しPIP関節の運動制限を生じやすく,早期から積極的な伸筋腱滑走訓練が必要とされる.通常,開放骨折と伸筋腱断裂を合併している場合には3週間固定法を用いるが,関節拘縮や腱の癒着により手指の機能低下が引き起こされることがある.そこで今回,基節骨骨折と伸筋腱断裂を合併する症例に対し,早期制限下自動運動(ICAM=Immediate controlled active motion)法を用いて介入した結果,良好な関節可動域と握力を獲得し,早期に趣味活動を再開できた症例の経過を報告する.なお,本報告は症例の同意を得ている.
【症例】
70代後半の男性.右利き.無職.趣味はゴルフと読書.チェーンソーを使用中に左小指を受傷し,同日入院となった.左小指基節骨開放骨折とzone 4での左小指伸筋腱断裂の診断で,翌日に観血的整復固定術(ORIF)+腱縫合術を行なった.伸筋腱は早期運動療法が行えるよう中央索はdouble looped suture(4strand)で,側索はsingle looped suture(2strand)で縫合した.指神経の断裂はなかった.本人の希望は早期のゴルフ復帰.
【後療法】
術後3週まで終日掌側カックアップスプリントを装着し,関節可動域練習時にはyokeスプリントを装着した.術後4-5週,終日yokeスプリントを装着.術後5週以降,yokeスプリントOFF.運動療法は術後4週までは自動運動,術後4週以降に自動介助運動を行った.スプリント療法・運動療法の他に,自主練習指導,スプリントの管理方法を指導した.
【作業療法経過】
第5病日(術後1週):作業療法開始.スプリントを作成し,管理方法を指導した.自主練習はyokeスプリントを装着し自動運動を指導.第15病日(術後2週):外来作業療法開始.第22病日(術後3週):終日yokeスプリントのみ装着.第36病日(術後6週):yokeスプリントOFF.関節可動域(左小指):MP関節屈曲48°/伸展-18°,PIP関節屈曲58°/伸展-12°,DIP関節屈曲60°/伸展10°.%TAM(Total Active Motion)は示指・中指・環指:good,小指:Fair(63%)であった.第74病日(術後10週):パワーグリップ許可.第75病日(術後10週):作業療法終了.最終評価は関節可動域(左小指):MP関節屈曲50°/伸展0°,PIP関節屈曲80°/伸展-24°,DIP関節屈曲72°/伸展6°.%TAM(Total Active Motion)は示指・中指・環指:good,小指:good(82%)に改善.ADLに支障はなく,握力は右36.0 kg,左37.0 kg.第89病日:ゴルフ復帰.
【考察】
本症例は術後8週でフルグリップが可能となり,術後11週では握力は健側と同程度に回復し,趣味であるゴルフの再開を果たした.zone4の伸筋腱断裂では腱の癒着や再断裂が発生しやすいが,yokeスプリントを用いたことでそれらを起こさずに,良好な屈曲可動域を獲得できたと考える.また,アウトリガーの調整や煩雑な練習が不要であり,スプリントの管理が容易に行えたことも利点であったと考える.今回は基節骨骨折と伸筋腱断裂を合併した症例であったが,ICAM法にて早期自動運動を行ったことで良好な関節可動域や握力の獲得ができ,手全体としての機能を維持できたと考えられる.