第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-9-1] Safety pin スプリントのワイヤーの太さの選択と導入の適応

奥村 修也 (常葉大学 保健医療学部 作業療法学科)

はじめに
 safety pin スプリント(以下SPS)は手指PIP関節の伸展固定や屈曲拘縮矯正に用いられる.市販品もあるが,作製が容易なためOTが作製することも少なくない.本研究はSPSに用いるワイヤーの太さによるPIP関節の伸展力と適合性の変化を検討し,ワイヤーの太さの選択と期待できる効果から適応を検討する.
方法
 市販の太さの異なるワイヤー4種(同一メーカー1.2・0.9・0.7・0.55㎜)を用いてSPSを作製した.デザインは手指PIP関節の伸展を目的とし近位は基節骨基部・遠位はDIP関節近位中節部までとした.ワイヤーで長軸を70㎜・横軸20㎜の長方形の枠を作り,長軸両端の10㎜を熱可塑性プラスチックで包み各ワイヤーで10個ずつ作製した.
 手指モデルを用いてPIP関節屈曲10°・20°・30°・40°の4角度を設定し PIP関節をスプリントの長軸が跨ぐように掌側から装着した.伸展力は手指モデルのPIP関節の背側方向に300gで牽引し,手指モデルの中節部掌側にかかる力を直径10㎜の円形の圧センサーで計測した.適合性は伸展力の計測時に側方より写真撮影し,適合性の基準は中節部背側縁の延長線と熱可塑性プラスチック包んだスプリント遠位の延長線の交わる角度で判断した.すなわち適合性は平行であれば良好,鈍角で交わるほど不良となる.
結果
 伸展力は各ワイヤーの各角度いずれも300gの牽引に対して91.8gという結果で,各ワイヤー10個間の個体差,ワイヤーの太さによる差は認めなかった.
 適合性はPIP関節屈曲10°ではワイヤー1.2㎜で平均10.5°・0.9㎜で平均7.1°・0.7㎜で平均0.4°・0.55㎜で平均0.0°. 屈曲20°ではワイヤー1.2㎜で平均11.9°・0.9㎜で平均5.7°・0.7㎜で平均0.4°・0.55㎜で平均0.0°,屈曲30°ではワイヤー1.2㎜で平均18.2°・0.9㎜で平均13.9°・0.7㎜で平均8.3°・0.55㎜で平均2.4°,屈曲40°ではワイヤー1.2㎜で平均29.1°・0.9㎜で平均25.0°・0.7㎜で平均16.6°・0.55㎜で平均10.9°であった.PIP関節の屈曲角度に関わらず1.2㎜と0.7・0.55㎜,0.9㎜と0.55㎜で有意差を認めた.
考察
 SPSは3点支持の原理で伸展力を生み出すため,太いワイヤーほど剛性が強く伸展力が分散せず中節部にかかる力は細いワイヤーよりも大きいと考えていた.しかし,結果からワイヤーの太さ・角度の変化による伸展力の差はなかった.この要因は力点のPIP関節部と作用点の中節部の距離が短く影響しなかったと考えられる.また,センサーも一部に負荷がかかれば接触状況に関係なく圧を拾う構造であるためと考えられる.
 適合性はワイヤーの太さに関わらず屈曲角度が増加するにつれ,中節部背側縁の延長線とsplint遠位の延長線の交点は鈍角となり適合性が低下する傾向にあった.SPSの適応は屈曲30°以下とされており大きな屈曲角度には適応しないことが確認できた.また,10°~40°すべての屈曲角度で太いワイヤーと細いワイヤー間で有意差を認め太いワイヤーほど適合性が低下する傾向にあった.これらからSPSの使用で検討すべきことは,PIP関節の屈曲角度が大きい場合に太いワイヤーの使用は適合性が不良で中節部遠位に伸展力がかかる.これは太いワイヤーを用いて伸展矯正を行うとPIP関節背側で基節骨骨頭と中節骨骨底を近づける力が働き関節を損傷させる可能性が危惧される.成書にはSPSについて「ばねの弾性を利用したIPの伸展補助」と記載があり,この要素を利用するならば適合性から考えてワイヤーは0.7㎜以下を使用することが望ましいと考えられる.また,太いワイヤーはボタン穴変形の訓練用の固定用スプリントやserial staticスプリントとして使用するのに有用と考える.