第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-9-2] 人工筋型筋電装具における操作効率の熟達期間と主観的満足度との関係

中山 淳1, 福井 信佳1, 砂川 耕作1, 小川 和徳2, 田野 確郎3 (1.関西医科大学リハビリテーション学部, 2.ダイヤ工業, 3.でんの整形外科クリニック)

【序論】近年,上肢の神経麻痺に対するリハビリテーションでは,装具療法の重要性が報告されている.しかし,目的に応じて装具を付け替える必要があるなどの問題点も多い.著者らは,これらの問題点に対して,人工筋を利用して矯正機能と関節保護機能が可能な装具を開発した.さらに筋電を用いることで,これまで不可能であった随意的な運動が可能となる機能を併せ持った新しい人工筋型筋電装具Myoelectric function type Hybrid Artificial Muscle Splint (MfHAM)を開発した.
【目的】本研究目的は,MfHAM装着時における操作効率の熟達期間と主観的満足度との関連を明らかにすることである.
【方法】対象は,既往に手指の疾患のない非障害者男性6例である.平均年齢は44.2(62~32)歳であった.評価方法は,上肢の操作効率の評価法にBox and Block Test(BBT)を用いた.1セッションでBBTを3回実施し,セッションの平均個数を算出した.また,Sales Growth Rateを用いて前後の個数算出し増減率5%未満を安定化と定義し,安定化した回数を評価した.BBTは,2.5cm角の木製ブロックを隣り合った箱から箱へ1分間でいくつ移動できるかで測定した.主観的満足度評価には,system usability scale(SUS)を用いて装具装着開始時と終了時に評価した.統計学的処理は,満足度の開始時と最終時の変化にはFriedman検定を実施した.BBTの点数とSUSの小項目およびVASの関係については,Speamanの順位相関係数を求めた.全ての検定における有意水準は5%未満とした.本研究は関西医科大学倫理委員会にて承認を得ている.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,個人情報保護に十分注意し,対象者の了承を得て施行した.
【結果】全対象者のBBTの平均個数は,5回目の施行は18.7±1.38,6回目の成功は18.3±0.74となり,SGR-2%となったため結果は6回目で安定化された.装具の満足度は,SUSでは初回時には51.8±14.3/100点で,最終評価時には82.2±10.8/100点と有意に改善を認めた.また,BBTの結果とSUSの10項目のSpearmanの順位相関係数ではいずれの項目も統計的に有意な関係であった.なかでも,「この支援機器には,いろんな機能がうまくまとまっていると感じた」(r=0.86),「この支援機器を使いこなせると確信している」(r=0.77),「この支援機器は使いやすいと感じた」(r=0.72)およびVAS(r=0.80)を用いた満足度とは高い正の相関を示した.
【考察】我々は,先行研究において人工筋の張力を活用した牽引機能を持たせた装具の有効性を報告してきた.この機能をMfHAMにも応用し,人工筋の張力による動的な矯正力に手関節と手指の運動を連動させた他動運動が
可能となった.さらに,表面筋電を取り入れたことにより,反対側の前腕に設置した筋電信号にて装具側が随意的に手関節および指の屈曲・伸展運動を可能にする装具の操作性を実現させた.しかし,筋電を用いているためやや操作が複雑になることから練習が必要となる.本研究結果から,装具の操作性を身に付けるためには6回程度の操作性の練習をすることが必要であると言える.装具装着開始時には,「扱いづらい」「使い始めるまでに学ぶことが多い」など満足度は低かった.しかし,操作効率が安定すると,「使いやすさ」,「複雑に感じる」点も改善され満足度も向上する傾向にあった.上肢の操作性の熟達度と主観的満足度において,上肢機能の向上は患者満足度の向上につながる可能性が示唆された.