第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-9-3] 大腿骨近位部骨折術後患者において在宅復帰に及ぼす因子の検討

多田 光佑, 原 克典 (益田赤十字病院整形外科部 リハビリテーション技術課)

【緒言】
大腿骨近位部骨折術後患者の術後成績を報告した先行研究では,認知症や重篤な合併症の有無,受傷前の歩行形態などが在宅復帰に影響を及ぼす主な因子として数多く報告されている.しかし,これらの因子と患者の社会的背景を除外した上で,身体機能と精神機能に着目し在宅復帰に影響を及ぼす因子を検討した先行研究は少なく,これらが明らかになることで患者の在宅復帰に向けて効果的なリハビリテーションを提供できる可能性が考えられる.
【目的】
大腿骨近位部骨折患者の術後4週目の身体機能と精神機能を明確にし,在宅復帰に影響を及ぼしている因子の究明とその因子のカットオフ値を予測することを目的とした.
【方法】
2020年2月~10月までの大腿骨近位部骨折術後患者92例のうち,受傷前に屋内移動が一本杖歩行又は独歩にて自立していた者,改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)が21点以上である者,理学・作業療法の妨げとなる合併症を持たない者の3条件を満たす30例(男性6例,女性24例,平均年齢83.03±7.15,Body Mass Index(以下BMI)平均値21.94±3.32,HDS-R平均点26.5±2.99) を対象とした.身体機能評価として,握力,患側等尺性膝関節伸展筋力体重比,機能的自立度評価表,Timed up to Go,10m歩行速度, Short Physical Performance Batteryを行った.精神機能評価として,Modified Falls Efficacy Scale (以下MFES),Vitality Index,やる気スコア,日本整形外科学会股関節疾患評価質問票を行った.当院クリニカルパスに準じて退院目標時期である4週目,又は4週以内に退院・転院した場合はリハビリ最終介入時に評価を行った.統計学的処理として,当院から直接在宅復帰した在宅復帰群16例とその他転帰先である非在宅復帰群14例の2群に分類し,各評価項目と基本属性(年齢,HDS-R,BMI)の比較をStudent’s t検定,Mann-Whitney’s U検定を用いて行った.次に有意差を認めた項目でSpearmanの順位相関係数,Pearsonの積率相関係数を求め,多重共線性を考慮し|r|≦0.7の因子を除外した上でロジスティクス回帰分析を行った.さらに,ロジスティクス回帰分析で有意差を認めた項目の受信者動作特性曲線(以下ROC曲線)を作成した.統計ソフトは「EZR」を用い,有意水準は5%未満とした.研究に先立ち,倫理的・人道的研究の概念に準処した上で行った.
【結果】
ロジスティック回帰分析の結果,MFES(オッズ比:1.05,95%信頼区間:1.00-1.09,P値:0.0401)のみ有意差を認めた.また,MFESのROC曲線を作成した結果,カットオフ値は116点 (曲線下面積:0.862,95%信頼区間:0.725-0.998,感度:0.687,特異度:1)であった.
【考察】
大腿骨近位部骨折術後患者において転倒自己効力感に対して介入することは在宅復帰に良い影響を及ぼす可能性を認めた.また,本研究により得られたMFESのカットオフ値は116点であり在宅復帰を目標とする上で一つの指標となることが示唆された.