[PD-9-6] 大腿骨近位部骨折を受傷する前の認知機能と生活障害の分析
はじめに
高齢者の大腿骨近位部骨折の受傷者数は,骨粗鬆症の治療により減少する可能性も考えられるが,現在の推計においては,2042年まで増加する.一次骨折予防の観点から,さらに増加する予防対象者の選出基準を明確にして,予防的リハに関わることが求められる.今回入院前の認知機能と生活障害をThe Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21(以下DASC-21)で調査分析し,一定の知見が得られたため,報告する.
目的
大腿骨近位部骨折を受傷する前の認知機能と生活障害をDASC-21で分析し,骨折予防の対象者の基準を検討すること.
対象
2021年8月から2022年8月に,当院に入院した大腿骨近位部骨折患者(80歳以上)のうち,入院前のDASC-21と手術前にMini Mental State Examination Japanese(以下MMSE-J)が測定できた56例を対象とした.
方法
当院に入院した大腿骨近位部骨折患者に対し,入院前のDASC-21(4件法21項目観察式尺度)と,手術前のMMSE-Jを評価した.Spearmanの順位相関係数によりDASC-21とMMSE-Jの偏相関係数を求めた.DASC-21の下位項目から評価点数が低下しているものの定義を中央値4として抽出し,骨折予防の対象者の基準の一助とした.
また,本研究は,個人情報を匿名加工し,所属機関の倫理審査委員会の承認を得ている.
結果
DASC-21とMMSE-JのSpearmanの順位相関係数は相関係数r=-0.44,p<0.01と有意であった.DASC-21の下位項目において中央値が4を示したのは,6.道に迷って家に帰ってこられなくなることはありますか,7.電気やガスや水道が止まってしまったときに,自分で適切に対処できますか,10.一人で買い物はできますか,11.バスや電車,自家用車を使って一人で外出できますか,12.貯金の出し入れや,家賃や公共料金の支払いは一人でできますか,であった.
考察
DASC-21の内的信頼性・妥当性に関する研究において栗田らは,DASC-21とMMSEは強い負の相関(r=-0.65)を示したと報告している.今回Spearmanの順位相関係数による偏相関係数はr=-0.44であり,中等度の負の相関を示した.過去の報告に比べ,偏相関係数が低い結果を示したのは,年齢による差や,評価時期の差(本研究は,DASC-21を受傷前,MMSE-Jを手術前で評価)が考えられた.さらに栗田らがおこなった研究の対象者は都市部在住の80歳以下の方である一方,今回の研究は平均年齢が88.7±5.2歳とより高齢で地方都市であることから,生活障害(物理的な環境の影響による金銭管理,公共交通機関の困難さ)がより低下していることも予想された.
下位項目の検証においては,要支援1に達していない状態である可能性が推測された.
DASC-21は認知症初期集中支援チームの評価ツールとなっており,地域との情報共有により身体機能の低下のみに焦点を当てた予防的なリハのみでなく,認知機能や活動の狭小化にも着眼し一次骨折予防の対象者の選出基準として優先順位を高くする必要があると考えた.
高齢者の大腿骨近位部骨折の受傷者数は,骨粗鬆症の治療により減少する可能性も考えられるが,現在の推計においては,2042年まで増加する.一次骨折予防の観点から,さらに増加する予防対象者の選出基準を明確にして,予防的リハに関わることが求められる.今回入院前の認知機能と生活障害をThe Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21(以下DASC-21)で調査分析し,一定の知見が得られたため,報告する.
目的
大腿骨近位部骨折を受傷する前の認知機能と生活障害をDASC-21で分析し,骨折予防の対象者の基準を検討すること.
対象
2021年8月から2022年8月に,当院に入院した大腿骨近位部骨折患者(80歳以上)のうち,入院前のDASC-21と手術前にMini Mental State Examination Japanese(以下MMSE-J)が測定できた56例を対象とした.
方法
当院に入院した大腿骨近位部骨折患者に対し,入院前のDASC-21(4件法21項目観察式尺度)と,手術前のMMSE-Jを評価した.Spearmanの順位相関係数によりDASC-21とMMSE-Jの偏相関係数を求めた.DASC-21の下位項目から評価点数が低下しているものの定義を中央値4として抽出し,骨折予防の対象者の基準の一助とした.
また,本研究は,個人情報を匿名加工し,所属機関の倫理審査委員会の承認を得ている.
結果
DASC-21とMMSE-JのSpearmanの順位相関係数は相関係数r=-0.44,p<0.01と有意であった.DASC-21の下位項目において中央値が4を示したのは,6.道に迷って家に帰ってこられなくなることはありますか,7.電気やガスや水道が止まってしまったときに,自分で適切に対処できますか,10.一人で買い物はできますか,11.バスや電車,自家用車を使って一人で外出できますか,12.貯金の出し入れや,家賃や公共料金の支払いは一人でできますか,であった.
考察
DASC-21の内的信頼性・妥当性に関する研究において栗田らは,DASC-21とMMSEは強い負の相関(r=-0.65)を示したと報告している.今回Spearmanの順位相関係数による偏相関係数はr=-0.44であり,中等度の負の相関を示した.過去の報告に比べ,偏相関係数が低い結果を示したのは,年齢による差や,評価時期の差(本研究は,DASC-21を受傷前,MMSE-Jを手術前で評価)が考えられた.さらに栗田らがおこなった研究の対象者は都市部在住の80歳以下の方である一方,今回の研究は平均年齢が88.7±5.2歳とより高齢で地方都市であることから,生活障害(物理的な環境の影響による金銭管理,公共交通機関の困難さ)がより低下していることも予想された.
下位項目の検証においては,要支援1に達していない状態である可能性が推測された.
DASC-21は認知症初期集中支援チームの評価ツールとなっており,地域との情報共有により身体機能の低下のみに焦点を当てた予防的なリハのみでなく,認知機能や活動の狭小化にも着眼し一次骨折予防の対象者の選出基準として優先順位を高くする必要があると考えた.