第57回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-1] ポスター:神経難病 1

Fri. Nov 10, 2023 11:00 AM - 12:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PE-1-5] 発症から確定診断告知の期間における上肢型ALS患者の就労に着目した介入

宇久田 義樹1, 西田 明弘2, 三嶋 崇靖2, 坪井 義夫2, 鎌田 聡1 (1.福岡大学病院リハビリテーション部, 2.福岡大学病院脳神経内科)

【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下 ALS)は,上肢症状での発症が 50~60%,下肢症状,球麻痺症状での発症はそれぞれ 20~25%存在する.進行の中でうつ症状を合併することも多く,最終的に発症からALSと診断されるまでの期間は平均で15ヶ月程度となっている.生存期間が限られている疾患である中,発症から3年後に確定診断を受け上肢機能低下がありながら,退院後も心理的なストレスも少なく就労継続が可能となった症例を報告する.尚,本報告については本人に説明し同意を得ている.
【症例紹介】60代男性,上肢型ALS.仕事の際上肢の使いにくさを自覚され発症.厚生労働省ALS重症度分類は1,発症前は定年退職後も嘱託職員として週5日花や苗の卸売市場にて在庫管理を行っている.
 初回入院時:筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール(als functional rating scale ,以下ALSFRS―R)48点/48点 ,ADL・屋外歩行自立,MMT:両肩3,握力右17.3㎏/左21.4㎏,利き手巧緻性低下と母指球萎縮あり.STEF右97点/左100点,COPM:①仕事時の重たい物資を持つ,運ぶ(重要度9達成度5満足度5)②衣服ボタンの自立(重要度2達成度8満足度8)となっていた.
 症状増悪再入院時(初回より3か月後):MMT両肩3-,握力:右15.3㎏/左18.9㎏と低下.母指球萎縮だけでなくⅡ~Ⅴの骨間筋萎縮あり.筋電検査でも両上肢の線維束性収縮の割合向上を認め,STEF右93点/左99点と数値的にも緩徐な低下があった.ADLではボタンの開け閉めにのみ介助を要していたため,ALSFRS-R45/48点(≦41点9か月生存率90%)と低下していた.COPM:①(重要度8達成度8満足度7)②(重要度4達成度2満足度2),SDS:43/80「職場,家族に迷惑がかかる.症状進行の不安」の訴えあり,apathy scale:9/42となった.
【経過】告知3か月前に診断名として多巣性ニューロパチーの疑いとされ,IVIG療法,リハビリテーションを実施し退院する.症状悪化にて再入院し,X日にALSの告知を受けた.初回退院後は仕事の中で,商品を持ち上げることは困難で時折手助けが必要であったが,シャッターの開閉や在庫管理をチェックする際の書字は可能であった.しかし,症状増悪した再入院時には,力仕事全般が難しく,衣服のボタンが困難となっていた.仕事中できる限り力仕事は周りに支援してもらう等の環境調整,仕事量の配分調整をしてもらっているとのことであった.初回入院時では上肢の筋力訓練,巧緻動作訓練を身体機能,活動面に着目していた.しかし再入院にてALSと診断され,進行性疾患であることからも代償や動作指導に重きをおくこととなった.COPMより物資を持つ作業に対して,荷物を模した箱形のボックスでの動作訓練や足台を使用し高低差を利用し,肩関節屈曲外転を少なくした代償動作の指導を実施.ボタン操作には巧緻動作訓練を実施しながらも,ボタンエイドの試用,ファスナーの取手の工夫,ベルクロシャツへの変更の代償を提案した.
【結果】COPMの仕事への達成満足度の向上がみられ,更衣の代償動作によりALSFRS-R46点/48点へわずかに向上した.また2回の入院時にそれぞれにCOPMを実施したことで,就業時の課題が明確となり初回入院時と異なる原疾患,病態であったが具体的なアプローチが可能となった.
【考察】症例は職場の環境調整や代償の獲得により,仕事への達成満足度の向上がみられ,生存期間が限られる神経難病を告知された中でもニーズに応じた介入ができたと感じた.また症状進行が緩徐であり精神状態的にもうつ状態になることなく,積極的に就労を目標にできたことも重要であった.