第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-2] ポスター:神経難病 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PE-2-2] 進行を見据えた目標設定と問題点の共有により電動車椅子の導入に至ったALSの一例

杉澤 樹1, 宮城 翠1, 安島 和斗存1, 山澤 篤史2, 大国 生幸1 (1.東邦大学医療センター大森病院リハビリテーション科, 2.株式会社 幸和義肢研究所)

【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(ALS)は治療法が確立していない進行性の神経難病である.ALSに対するリハビリテーションでは,福祉用具などを利用した日常生活活動や社会活動に対する支援が求められる.支援を進めるためには,福祉用具の知識,練習課題の難易度や環境設定が重要となるが,虚無感や不安を感じる症例から希望を聴取し,疾患の進行を考慮した目標設定と問題点の共有を図ることも重要となる.
今回,進行が緩徐なALS症例を担当し,カナダ作業遂行測定(COPM)を用いて目標設定と問題点を共有し,協働したことで電動車椅子を利用した外出の自立に至れたため報告する.なお,今回の発表に際しては書面による説明と同意を得た.
【症例紹介】60歳代男性.X-18年に18年に左上肢の脱力が出現し,脊柱管狭窄症と診断された.X-16年に椎弓形成術(C2-C7)を受けたが両上肢の筋力低下は進行し,X-14年にALSと診断され,同年より当院への通院を開始した.その後,月1-2回の頻度で,徒歩と電車を利用して1時間30分程の時間をかけて一人で通院されていたが,X年Y月頃より「電車の椅子から立てずに乗り過ごすことが増えてきた.歩くのも心配だ.」などと外出に対する不安が聞かれたため外出手段の検討を開始した.
【作業療法評価】球麻痺症状はなく歩行は自立していた.MMTは両上肢0,両下肢4と上肢優位の筋力低下を認め,FIMは84点(運動項目49点)であった.
【目標設定】COPMを用いて症例の希望を聴取したところ, “外出” が重要度 8と高かった(達成度/満足度 7/7).そこで,外出における問題点を共有し,現状の身体機能と進行を考慮した結果, “電動車椅子による外出の獲得” を目標と設定した.新型コロナ蔓延により十分な外出支援が困難であったため,車椅子操作の獲得に重点を置いて自立を目指した.
【介入経過】スイッチコントローラの選定:Y+1月よりスイッチコントローラの選定を開始した.頸部回旋によるスティック操作を提案したが,操作時に進行方向から視界が逸れることへの恐怖感が強かったためフットスイッチを選択した.同時に,操作時の下肢の疲労感を評価し,1時間以上のスイッチ操作が可能となるよう,座面の高さやフットスイッチの位置を調整した.
電動車椅子の操作練習:自宅から病院までの通院経路を確認し,車道・歩道・駅構内・病院内の移動の問題点を想定し,Y+3月に3日間,各日1時間の練習を実施した.頸部の可動域制限により障害物までの距離感が掴めず掴めず,目視による後方確認が困難であったため,後退・方向転換,狭い通路の通過,エレベータの昇降に難渋した.そこで鏡を使用し車椅子の位置を確認しながらの移動練習を重点的に実施した.屋外では鏡の使用が困難であったため自動ドアの通過,勾配のある歩道や車道,スロープ,横断歩道の走行は,療法士による声掛け誘導を実施した.いずれの練習においても,チェックリストを用いて常に達成度の共有を図った.
【結果】Y+10月に電動車椅子を利用した外出が自立となり,X+11月には“外出” の重要度が9,達成度/満足度 8/8と改善を認め,通院頻度は月1回から月4,5回と増加した.
【考察】症状が進行するALSにおいては,日常生活活動や社会参加の支援が求められ,進行を考慮した目標設定や問題点の共有が重要となる.本症例でも,現状の身体機能と予後を見据えた目標設定と問題点を共有し,協働した結果,電動車椅子の円滑な導入につながりCOPMの改善に至ったと示唆された.