第57回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-2] ポスター:神経難病 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PE-2-5] 作業療法士が製作したコミュニケーション機器の導入

近藤 孝覚, 丸山 航輝, 佐藤 将史, 皆川 勝, 桑原 貴之 (新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院)

【はじめに】
 市販のコミュニケーション機器が使用困難な神経難病患者に対して,OTが製作したコミュニケーション機器とスイッチの導入及び退院後を想定した環境調整を行った経験を得たので報告する.
【目的】
 残存機能に合わせた操作方法の変更や音声出力の設定が可能なコミュニケーション機器を製作し,コミュニケーション支援における自作機器の有効性を検討した.
【症例紹介】
 多系統萎縮症と診断された 70 歳代男性で発症から 4 年経過し,日常生活活動は全介助を要している.妻,息子と同居し,妻が自宅での主介護者である.気管切開により言語表出は不可能だが指示理解は良好で左右の母指は各々内転動作でナースコールボタン操作が可能である.入院当初は頷きや首振りで意思表出が可能だったが次第に困難となり,症例や家族,担当看護師からコミュニケーション支援の希望が聞かれた.しかし,四肢及び母指以外の手指の随意運動が乏しく,文字盤や当院所有の携帯用会話補助装置などの使用が困難だった.
【方法】
 スイッチ操作で音声を出力する簡易コミュニケーション機器を製作した.入力スイッチは既製品だけでなく自作品にも対応し,音声内容や操作方法はプログラムの書き換えで任意に変更できる構成とした.今回は症例の残存機能である母指内転動作で操作可能な設定とした.
【経過】
 症例の左右の母指は各々内転動作が可能だったため,1 辺 12mm の正方形の小型スイッチに熱可塑性プラスチック材で三日月型の土台を接着し示指基節部に装着する方式とした.スイッチを母指で押すと,右手で「はい」左手で「いいえ」という音声を出力するプログラムとした.導入は作業療法場面での使用練習から開始した.そして,使用場面を理学療法及び言語聴覚療法場面に拡大し,看護師へ情報共有し日常的に使用できるように段階的に導入を進めた.
 病棟での使用が定着した後,自宅退院後も入院中の環境を再現するために外部入力スイッチに対応したアイトークウィズレベル(パシフィックサプライ社)を選定した.入院中にレンタル品を取り寄せ,自作スイッチを接続して使用した際に,症例及び妻から良好な反応が得られた.OT立ち合いの下で設定及び使用方法を説明し,自宅退院となった.
【結果】
 導入により症例のコミュニケーションに対する満足度は5/10から7/10へ向上した.また,担当看護師からは「返答が分かりやすくなった」,家族からは「助かります」という反応が得られた.
【考察】
 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018によると,神経難病患者のコミュニケーション障害には 拡大代替コミュニケーション(以下,AAC)の導入が推奨されているが,症例は当院が所有するAACの使用が困難だったため,症状の進行に合わせて入力スイッチや操作方法を変更可能な機器を製作した.母指の内転動作でスイッチを押して音声を出力する方法としたことで,症例の残存機能に適したAACが提供でき,意思疎通が導入前より容易となり満足度が向上したと考えられる.
 また,今回製作した機器の家族による自宅での調整は困難だったため外部入力スイッチに対応した既製品を選定し,症例用のスイッチと組み合わせることで入院中のコミュニケーション環境を自宅へ移行することが可能だった.入院中での症例に合わせた入力スイッチの形状や音声の操作方法の試行錯誤が行えたのは自作機器の使用によるものと考える.今回の介入で自作した機器は入院中から退院後までの包括的なコミュニケーション支援に有効だと示唆された.