[PE-3-2] パーキンソン病患者の内的リズムと外的リズムの違いについて
はじめに
パーキンソン病患者(PD患者)は,筆記,ボタン操作,ボトルの操作などが困難であることが知られている(Broeder et al.,2014).特に,PD患者のリズミカルな繰り返し動作の困難さの背景に大脳皮質-基底核系の器質的変化による自発的なリズムの形成障害が影響していることが報告されている(Drucker et al.,2019).加えて,日常生活動作 (ADL) を阻害する要因として,外的リズムと内的リズムの処理過程の違いも影響していることが報告されている(Scholten et al.,2020).本研究では,外的リズムと内的リズムによって運動の違いがあるかを可視化する目的として,観察場面で見られるボトルキャップの開閉の困難さに着目し,先行研究を参考(Laine et al.,2020)に,ボルトキャップの回転動作を測定できる「手指回転動作計測機器」を用いた.本研究は,埼玉県総合リハビリテーションセンターの倫理審査委員会の認証(認証番号:R3-09)を得て実施した.
方法
1.対象者:PD患者12名(男性2名,女性9名,平均年齢:71.75±7.9歳,平均罹患期間:12.8±6.0年,H/Y分類:3.25±0.8,UPDRS part Ⅲの平均値:34.9±12.3点)であった.
2.実施課題:1)Externally guided Task (EG Task):2.5秒間隔での音声刺激に合わせて,円柱を90°回転させる.2)Internally guided Task (IG Task):音声刺激もない状態で,自発的な2秒間隔のリズムで円柱を90°回転させる2課題とした.各課題を30回実施した.
3.データ分析:計測したデータから各課題時の「回転角度」:円柱を90°回転させた際の角度と,「運動時間インターバル」:課題中の運動インターバルとして,対象者が回転動作を開始したタイミングから次の動作開始のタイミングまでの間隔を算出した.EG taskでは,音刺激と音刺激の間隔とした.IG taskでは,音刺激がない状態で,対象者が回したタイミングと次の回すタイミングまでの間隔をインターバルとした.統計分析は,EG Taskと IG Taskの回転角度,運動時間インターバルの差(ウィルコクソンの順位和検定)とUPDRS part ⅢのスコアとEG Taskと IG Taskの回転角度,運動時間インターバルについて相関係数を求めた(スピアマンの順位相関係数).
結果
EG taskとIG taskの間で回転角度,運動時間インターバルに有意差な差があった(p<0.05).UPDRS part ⅢのスコアとIG task の運動時間インターバルに有意な相関が見られた(r=0.56,p<0.05).考察
IG taskでは,回転角度が大きくなり,運動時間インターバルに有意な相関が見られた.先行研究では,リズムを認識している状況下で聴覚刺激を呈示すると,刺激と運動の誤差を修正しながら運動を出力することが必要となるため,運動の自動化を阻害するとの報告がある(Scholten et al.,2020).PD患者では,外的リズムに合わせて運動のキューが機能するが,内的リズムに合わせて同じ動作で生じる誤差を修正することが困難であると考える.下肢のタッピング課題を用いた研究では,パーキンソン病では線条体の機能障害があるためPD患者は内的リズム運動の発生が困難であることも報告されており(Drucker et al.,2019),症状の重症度が高いほど内的リズムでの運動を自発的に行うことが難しい可能性があり,対象者の病態によって運動を行う際に内的リズムと外的リズムを用いるかの選択が異なる可能性も考えられる.今回の結果を活かしPD患者のスクリーニング検査やプログラム立案に応用できるかを検討していきたい.
パーキンソン病患者(PD患者)は,筆記,ボタン操作,ボトルの操作などが困難であることが知られている(Broeder et al.,2014).特に,PD患者のリズミカルな繰り返し動作の困難さの背景に大脳皮質-基底核系の器質的変化による自発的なリズムの形成障害が影響していることが報告されている(Drucker et al.,2019).加えて,日常生活動作 (ADL) を阻害する要因として,外的リズムと内的リズムの処理過程の違いも影響していることが報告されている(Scholten et al.,2020).本研究では,外的リズムと内的リズムによって運動の違いがあるかを可視化する目的として,観察場面で見られるボトルキャップの開閉の困難さに着目し,先行研究を参考(Laine et al.,2020)に,ボルトキャップの回転動作を測定できる「手指回転動作計測機器」を用いた.本研究は,埼玉県総合リハビリテーションセンターの倫理審査委員会の認証(認証番号:R3-09)を得て実施した.
方法
1.対象者:PD患者12名(男性2名,女性9名,平均年齢:71.75±7.9歳,平均罹患期間:12.8±6.0年,H/Y分類:3.25±0.8,UPDRS part Ⅲの平均値:34.9±12.3点)であった.
2.実施課題:1)Externally guided Task (EG Task):2.5秒間隔での音声刺激に合わせて,円柱を90°回転させる.2)Internally guided Task (IG Task):音声刺激もない状態で,自発的な2秒間隔のリズムで円柱を90°回転させる2課題とした.各課題を30回実施した.
3.データ分析:計測したデータから各課題時の「回転角度」:円柱を90°回転させた際の角度と,「運動時間インターバル」:課題中の運動インターバルとして,対象者が回転動作を開始したタイミングから次の動作開始のタイミングまでの間隔を算出した.EG taskでは,音刺激と音刺激の間隔とした.IG taskでは,音刺激がない状態で,対象者が回したタイミングと次の回すタイミングまでの間隔をインターバルとした.統計分析は,EG Taskと IG Taskの回転角度,運動時間インターバルの差(ウィルコクソンの順位和検定)とUPDRS part ⅢのスコアとEG Taskと IG Taskの回転角度,運動時間インターバルについて相関係数を求めた(スピアマンの順位相関係数).
結果
EG taskとIG taskの間で回転角度,運動時間インターバルに有意差な差があった(p<0.05).UPDRS part ⅢのスコアとIG task の運動時間インターバルに有意な相関が見られた(r=0.56,p<0.05).考察
IG taskでは,回転角度が大きくなり,運動時間インターバルに有意な相関が見られた.先行研究では,リズムを認識している状況下で聴覚刺激を呈示すると,刺激と運動の誤差を修正しながら運動を出力することが必要となるため,運動の自動化を阻害するとの報告がある(Scholten et al.,2020).PD患者では,外的リズムに合わせて運動のキューが機能するが,内的リズムに合わせて同じ動作で生じる誤差を修正することが困難であると考える.下肢のタッピング課題を用いた研究では,パーキンソン病では線条体の機能障害があるためPD患者は内的リズム運動の発生が困難であることも報告されており(Drucker et al.,2019),症状の重症度が高いほど内的リズムでの運動を自発的に行うことが難しい可能性があり,対象者の病態によって運動を行う際に内的リズムと外的リズムを用いるかの選択が異なる可能性も考えられる.今回の結果を活かしPD患者のスクリーニング検査やプログラム立案に応用できるかを検討していきたい.