[PE-3-5] 上肢の狭小化を示したパーキンソン病患者1例に対する触覚的cueを用いた車いす操作支援
【はじめに】Parkinson’s disease(以下,PD)のすくみ足・すくみ手に対する運動療法では視覚や聴覚,体性感覚による手がかり(以下,cue)を活用した治療戦略がよく用いられる.また,PD症状が重度な場合,車いすは重要な移動手段となるが,車いす駆動時に視覚や聴覚によるcueを入力し続けることは現実的には困難である.一方,触覚的cueはハンドリムを通して手指や手掌面に随時与えることが可能であるため,車いす操作の支援を考えた場合,有効であるかもしれない.今回,PD患者一例を対象として,上肢の触覚的cueがすくみ手の改善や車いす操作に与える効果を検証した.
【対象】対象AはPDの診断を受けた60歳代後半の男性.UPDRS運動機能検査:39/108点.車いす駆動時に徐々に上肢の運動が狭小化し,2分程度駆動を継続するとほとんど進まない状態となり,介助が必要な状況であった.対象Bは症候性てんかんの診断を受けた70歳代前半の男性で,上肢の筋力面は対象Aと同等であるものの,車いす駆動は自立していた.なお,発表に際して対象Aと対象B及びそれぞれの家族に対して同意を得た.
【方法】触覚的cueの有用性を確認する方法として,反復到達運動課題を考案した.椅子座位にて肩関節伸展20°・肘関節屈曲90°位の状態から肩関節屈曲60°・肘関節伸展0°位(前方へのリーチ)となる上肢の反復運動を120秒間で60往復行い,その際の上肢における運動の狭小化を観察した.運動覚情報のみで行なう触覚的cueなし条件と,開始位置と前方リーチした位置に突起物を設置し,触覚的cueも頼りにしながら行う触覚的cue付加条件とでそれぞれ課題を実施し,前方と後方の標的の間を飛び越えるようにして上肢を交互反復的に動かすよう教示した.観察者は前方または後方の標的に中指先端が到達していない回数を記録した.視覚の影響が2条件間で等しくなるように視線を前方に固定して直接的に標的が見えない状態で課題を実施した.また,実際の車いす駆動における触覚的cueの有用性を確かめるために,ハンドリムを8等分する位置に触覚的cueとして丸いノブを設置した車いすと,同タイプでハンドリムにノブが設置されていない車いすを用意し,それぞれ対象Aが10m駆動した際に要する時間を3回ずつ測定し,ABデザインを用いて検討した.
【反復到達運動課題の結果】対象Aでは触覚的cueなし条件の際にエラー数が47回,触覚的cue付加条件においてはエラーが4回みられたものの触覚的cueなし条件と比較して大幅に少ないエラー数を示した.対象Bでは触覚的cueなし条件では120秒間で6回と対象Aと比較してエラーが極めて少なく,触覚的cue付加条件ではエラーはみられなかった.
【車いす駆動時間の結果】ノブなし車いすの10m駆動時間(A期)の平均は67.8秒,ノブ付き車いすの10m駆動時間(B期)の平均は40.0秒で,41%駆動時間が短縮した.また目視法による水準の変化は‐31.9秒であり,勾配は最小自乗法による回帰直線の傾きより,A期,B期それぞれ2, 2.25であった.
【考察】反復到達運動課題において,対象Aは対象Bと比べて上肢の運動の狭小化が顕著であった.この原因として,PDの三大兆候の一つである寡動が考えられる. 対象Aにみられた触覚的cueなし条件と触覚的cue付加条件の乖離は,上肢の触覚的cueによる矛盾性運動の存在を示唆しており,上肢の運動における触覚的cueの活用も有効である可能性が示唆された.車いす駆動時間の比較においても触覚的cue付加条件が,触覚的cueなし条件と比較して駆動時間を大幅に改善させたと考えられ,車いす駆動で上肢の狭小化がみられるPD患者に対する日常生活支援に効果的であると考えられた.
【対象】対象AはPDの診断を受けた60歳代後半の男性.UPDRS運動機能検査:39/108点.車いす駆動時に徐々に上肢の運動が狭小化し,2分程度駆動を継続するとほとんど進まない状態となり,介助が必要な状況であった.対象Bは症候性てんかんの診断を受けた70歳代前半の男性で,上肢の筋力面は対象Aと同等であるものの,車いす駆動は自立していた.なお,発表に際して対象Aと対象B及びそれぞれの家族に対して同意を得た.
【方法】触覚的cueの有用性を確認する方法として,反復到達運動課題を考案した.椅子座位にて肩関節伸展20°・肘関節屈曲90°位の状態から肩関節屈曲60°・肘関節伸展0°位(前方へのリーチ)となる上肢の反復運動を120秒間で60往復行い,その際の上肢における運動の狭小化を観察した.運動覚情報のみで行なう触覚的cueなし条件と,開始位置と前方リーチした位置に突起物を設置し,触覚的cueも頼りにしながら行う触覚的cue付加条件とでそれぞれ課題を実施し,前方と後方の標的の間を飛び越えるようにして上肢を交互反復的に動かすよう教示した.観察者は前方または後方の標的に中指先端が到達していない回数を記録した.視覚の影響が2条件間で等しくなるように視線を前方に固定して直接的に標的が見えない状態で課題を実施した.また,実際の車いす駆動における触覚的cueの有用性を確かめるために,ハンドリムを8等分する位置に触覚的cueとして丸いノブを設置した車いすと,同タイプでハンドリムにノブが設置されていない車いすを用意し,それぞれ対象Aが10m駆動した際に要する時間を3回ずつ測定し,ABデザインを用いて検討した.
【反復到達運動課題の結果】対象Aでは触覚的cueなし条件の際にエラー数が47回,触覚的cue付加条件においてはエラーが4回みられたものの触覚的cueなし条件と比較して大幅に少ないエラー数を示した.対象Bでは触覚的cueなし条件では120秒間で6回と対象Aと比較してエラーが極めて少なく,触覚的cue付加条件ではエラーはみられなかった.
【車いす駆動時間の結果】ノブなし車いすの10m駆動時間(A期)の平均は67.8秒,ノブ付き車いすの10m駆動時間(B期)の平均は40.0秒で,41%駆動時間が短縮した.また目視法による水準の変化は‐31.9秒であり,勾配は最小自乗法による回帰直線の傾きより,A期,B期それぞれ2, 2.25であった.
【考察】反復到達運動課題において,対象Aは対象Bと比べて上肢の運動の狭小化が顕著であった.この原因として,PDの三大兆候の一つである寡動が考えられる. 対象Aにみられた触覚的cueなし条件と触覚的cue付加条件の乖離は,上肢の触覚的cueによる矛盾性運動の存在を示唆しており,上肢の運動における触覚的cueの活用も有効である可能性が示唆された.車いす駆動時間の比較においても触覚的cue付加条件が,触覚的cueなし条件と比較して駆動時間を大幅に改善させたと考えられ,車いす駆動で上肢の狭小化がみられるPD患者に対する日常生活支援に効果的であると考えられた.