[PE-4-4] 急性期視神経脊髄炎スペクトラム障害患者に対する作業療法評価
【序論】視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)は多発性硬化症の一亜型で,2015年に新たな診断基準が提唱された.好発年齢は30代後半から40代前半で,本邦の有病率は10万人あたり3.4人,そのうち9割は女性である.臨床症状は視神経炎による視力低下や視野障害,脊髄炎による運動障害,感覚障害,排泄障害に加え,脳幹障害による嘔吐,吃逆を特徴とする.NMOSDの治療は多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017が応用される.急性増悪期はステロイドパルス療法(intravenous methylprednisolone:IVMP)が行われ,効果が不十分な場合に単純血漿交換療法または免疫吸着療法(immunoadsorption plasmapheresis:IAPP)が行われる.病態の評価はKurtzke総合障害度スケール(Expanded Disability Status Scale of Kurtzke:EDSS)が推奨されている.現在のガイドラインでは,患者のADLに影響する視機能や疲労度,上肢機能評価には推奨されたものがなく,有効なリハビリテーションの評価と訓練方法に根拠を集積する段階である.
【目的】入院加療中のNMOSD患者に作業療法を実施し,NMOSDの特徴的な病態経過を症例報告し,OTが行うべき評価指標の一助とすることを目的とした.
【方法】症例は30歳代後半の女性,右利き.頸部・背部痛を主訴に受診し,MRIにて両側大脳皮質下,脳幹,脊髄に高信号域を認め,急性散在性脳脊髄炎疑いと診断され入院となった.2病日からIVMPが開始されたが,8病日に運動麻痺の増悪を認めた.11病日の血液検査の結果,抗aquaporin 4抗体が陽性であり診断名がNMOSDに変更された.IAPPが4クール(11,15,17,19病日)開始され,45病日に自宅退院された.作業療法が開始された5病日から退院までを治療経過に沿って報告する.本報告に対して症例には口頭にて説明し,同意を得た.
【結果】5病日での意識レベルはJCS:I-1,認知機能はMMSE-Jで29/30点であった.Brunnstrom Recovery Stage(BRS:上肢/手指/下肢)は右V/VI/VI,左V/V/VI,握力は右15kg,左2kg,EDSSは8.5点であり,運動麻痺は軽度でトイレ以外は臥床していた.頭痛が持続しており,訓練では症状に応じて離床と機能評価を行った.8病日に運動麻痺が増悪し,BRSは右V/VI/VI,左V/IV/V,Fugl-Meyer Assessment(FMA)は右64点,左45点,握力は右12kg,左1kgとなった.IAPP1・2クール後のBRSは右VI/VI/VI,左VI/V/VI,FMAは右64点,左57点,握力は右13kg,左3kg,EDSSは6.5点であり,運動麻痺と筋出力は改善し,離床回数は増加した.訓練ではアクリルコーンを用いた把持動作訓練,ペグを用いた巧緻動作訓練を行い,その際の疲労度はNumerical Rating Scale(NRS)で6だった.IAPP3・4クール後のBRSは右VI/VI/VI,左VI/VI/VI,FMAは右64点,左59点,握力は右16kg,左4kg,EDSSは3.5点であり,巧緻性は改善し,セルフケアは自立した.19病日,負荷量を上げた上肢機能訓練での疲労度はNRSで2だった.
【考察】症例は11病日にNMOSDの診断を受け,初期のIVMPの効果が不十分で病状が段階的に進行したため,ADLでは症状に十分注意する必要があった.IAPPでは筋出力の変化だけでなく,耐久性にも変化があり,易疲労性の評価は不可欠であった.OTでの評価はEDSSに加え,より病態の変化を検出できるNRSを用いた疲労度と,FMAや握力を用いた上肢機能評価でモニタリングした.評価時期は,IVMP施行中は経時的に,IAPP施行中は実施される日ごとに評価することが望ましい.症例は視機能低下はなかったが,NMOSDの病状変化を検出するために,対座法による視野検査や机上課題で視力低下を把握することも考慮すべきだ.
【目的】入院加療中のNMOSD患者に作業療法を実施し,NMOSDの特徴的な病態経過を症例報告し,OTが行うべき評価指標の一助とすることを目的とした.
【方法】症例は30歳代後半の女性,右利き.頸部・背部痛を主訴に受診し,MRIにて両側大脳皮質下,脳幹,脊髄に高信号域を認め,急性散在性脳脊髄炎疑いと診断され入院となった.2病日からIVMPが開始されたが,8病日に運動麻痺の増悪を認めた.11病日の血液検査の結果,抗aquaporin 4抗体が陽性であり診断名がNMOSDに変更された.IAPPが4クール(11,15,17,19病日)開始され,45病日に自宅退院された.作業療法が開始された5病日から退院までを治療経過に沿って報告する.本報告に対して症例には口頭にて説明し,同意を得た.
【結果】5病日での意識レベルはJCS:I-1,認知機能はMMSE-Jで29/30点であった.Brunnstrom Recovery Stage(BRS:上肢/手指/下肢)は右V/VI/VI,左V/V/VI,握力は右15kg,左2kg,EDSSは8.5点であり,運動麻痺は軽度でトイレ以外は臥床していた.頭痛が持続しており,訓練では症状に応じて離床と機能評価を行った.8病日に運動麻痺が増悪し,BRSは右V/VI/VI,左V/IV/V,Fugl-Meyer Assessment(FMA)は右64点,左45点,握力は右12kg,左1kgとなった.IAPP1・2クール後のBRSは右VI/VI/VI,左VI/V/VI,FMAは右64点,左57点,握力は右13kg,左3kg,EDSSは6.5点であり,運動麻痺と筋出力は改善し,離床回数は増加した.訓練ではアクリルコーンを用いた把持動作訓練,ペグを用いた巧緻動作訓練を行い,その際の疲労度はNumerical Rating Scale(NRS)で6だった.IAPP3・4クール後のBRSは右VI/VI/VI,左VI/VI/VI,FMAは右64点,左59点,握力は右16kg,左4kg,EDSSは3.5点であり,巧緻性は改善し,セルフケアは自立した.19病日,負荷量を上げた上肢機能訓練での疲労度はNRSで2だった.
【考察】症例は11病日にNMOSDの診断を受け,初期のIVMPの効果が不十分で病状が段階的に進行したため,ADLでは症状に十分注意する必要があった.IAPPでは筋出力の変化だけでなく,耐久性にも変化があり,易疲労性の評価は不可欠であった.OTでの評価はEDSSに加え,より病態の変化を検出できるNRSを用いた疲労度と,FMAや握力を用いた上肢機能評価でモニタリングした.評価時期は,IVMP施行中は経時的に,IAPP施行中は実施される日ごとに評価することが望ましい.症例は視機能低下はなかったが,NMOSDの病状変化を検出するために,対座法による視野検査や机上課題で視力低下を把握することも考慮すべきだ.