第57回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-5] ポスター:神経難病 5

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PE-5-3] 多発性硬化症患者のQOL向上への取り組み

寺尾 博幸 (一般社団法人 巨樹の会 新上三川病院)

【はじめに】近年の難病医療においてQOLは重要視されている.長期経過の中で,対象者は自分の希望を抑圧・制限する傾向にある.(川口悠子ら/2022)今回,診断まで長期化して,多発性硬化症と診断された時点で寝たきり,抑鬱を認めた事例を担当した.事例に対し,ADOCを用いることで作業に対する思いの共有と前向きな意向へ変化が見られ,活動・参加の拡大,QOLが向上した.多発性硬化症患者に対しての治療選択の一助として可能性を示唆したため,報告する.尚,報告に際し,対象者から同意を得ている.
【事例紹介】40歳代女性.二児の母.仕事,家事役割全般を担っていた.家族との繋がりを大切にしており,週に1回は家族で外食に行くことが習慣であり,楽しみであった.現病歴:四肢痙性麻痺,感覚障害,強直性痙攣が出現し,受診するも原因不明で状態悪化から240日後に多発性硬化症と診断された.36病日より回復期リハビリテーションを開始した.
【入院時評価】総合障害度評価尺度(EDSS):9.0 全身的に重度の可動域制限・拘縮,中等度の運動麻痺と重度の痙縮あり.10m歩行:実施困難.FIM(運動/認知):49点(14/35).家族hope:車椅子であっても家に帰れるようになって欲しい.本人hope:前に戻りたい.ADOC(満足度):食事(1),余暇時間(1),整容(1),排泄(1),屋内の移動(1).
【介入方法と経過】
第一期:食事動作の獲得に向けた支援時期(36病日〜117病日)
「もう寝たきりなんでしょ」「もっと早く原因がわかったら」といった発言と感情失禁することが多々あり.まずは,食事動作獲得に向け,できそうな行為獲得から展開し,身辺処理動作獲得へと移行した.75病日:車椅子や周囲環境の調整,PSB,スプリント,自助具で活動負荷量と難易度を調整し,食事自己摂取を開始した.後半は介助が必要であるが,運動麻痺,関節拘縮は改善傾向であった.117病日:EDSS:7.5 ADOC:食事(5),余暇時間(5),整容(5),排泄(3),屋内の移動(3).FIM:67点(32/35).食事は箸操作で自立となった.
第二期:参加の拡大に向けた支援時期(118病日〜180病日)
接触介助で独歩は可能も日内変動があり,「すぐ動けなくなる」「自分のこともできないのに」と参加狭小の傾向であった.そこでADOCの再評価を行った.外食(1),外での移動(2),掃除(1),洗濯(1),買い物(1).「お気に入りの焼肉屋に家族と外食ができて,お肉を焼いてあげる」を合意目標として共有した.外出を想定した屋外訓練,車椅子主体での家事動作訓練を提供し,日内変動と活動負荷量に対して対処戦略を図った.140病日〜:家族指導,住宅改修と退院支援を進めた.「自分の体との付き合い方がわかってきた」「今の体でも楽しみが戻った」と前向きな意向が見られた.
【結果】EDSS:6.0 全身的に中等度〜軽度の可動域制限・拘縮,軽度の運動麻痺と中等度〜軽度の痙縮あり.10m歩行:28秒 43歩(独歩近位見守り).FIM:95点(60/35).ADOC:外食(4),外での移動(4),掃除(4),洗濯(3),買い物(3).身体障害者手帳2級を取得し,習慣単位での活動負荷量の調整,家庭内役割の獲得,社会参加の拡大を目的に訪問リハビリテーションへと移行した.
【考察】神経難病患者では,機能的目標と疾患由来の目標を設定する必要があり,「活動が遂行できなくなった」ではなく,「どのようにすれば自分が望む生活を保持できるか」と主体的に取り組むプロセスが重要である.(尾川達也ら/2022)今回,長期経過による参加の狭小が見られた多発性硬化症患者に対して,ADOCを用いることで,諦めていた大切な作業の共有と対処戦略を進めることができた.疾病特性に適した目標設定プロセスを支援することで,作業に対する新たな価値観をもたらし,QOLの向上に寄与できた可能性がある.