第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

神経難病

[PE-6] ポスター:神経難病 6

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PE-6-4] SEIQoL-DWを用いた事で,作業の重要性を再認識し,抑うつ・不安の軽減に繋がった事例

榎本 光彦, 宇都宮 裕人, 渡嘉敷 友梨 (IMSグループ医療法人社団明芳会イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院)

【はじめに】神経難病患者は運動症状の悪化に伴い, 生活の不自由さや社会・家庭での役割喪失から自尊心の低下等が認められ,抑うつや不安症状が強くなり,QOL低下に繋がると報告されている.今回,ハンチントン病を発症した50歳代の男性患者を担当.病気を患った事で将来の生き方や日常生活に対して現実を受け止めきれず,入院時の抑うつ・不安は強い状態であった.そこで難病患者等に対して包括的なQOL評価ができる,Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life (SEIQoL-DW)を用いて,面接を通した関わりを行った結果,抑うつ・不安の軽減からQOLの改善に至った為,報告する.尚,症例より発表に際し書面にて同意を得ている.
【症例紹介】50代男性 診断名:ハンチントン病 現病歴:会社でミスが増えた事を指摘され受診.若年性認知症の診断となるが,徐々に舞踏運動や不随意運動が出現した事で受診し上記診断,当院へ転院となる.生活歴:妻と子供2人の4人暮らし.IT企業へ就職,管理職に就いていたが,病気を発症した事で自主退職.その後社会的な役割喪失から抑うつとなり希死念慮を認めた.
【初回評価】HADS抑うつ20点/不安21点 SOPI(各15点満点):セルフケア3点/生産的活動3点/余暇活動4点 MMSE-J:25点 FIM:運動78点 認知30点(ADL自立)面接時,今後・過去の生活について「身体がいつ動かなくなるかわからない,今は何も考えられない」「この辛さは自分にしかわからない」と発言があった.SEIQoL-DW:症例が生活の中で重要な5項目を列挙困難であった為実施困難.
【介入方法】SEIQoL-DWは生活で最も重要な5項目を聴取し,レベル(満足度:1〜100での視覚的評価)・重み(重要度:5項目の全体を100%にする)を評価する.
重要性:「レベル×重み」からQOLを算出.点数が高い程生活の質が高い.精神的負担を考慮し1日1項目を5日間にて行う.
ⅰSEIQoL-DWを用いて,重要性の高い作業を聴取.聴取された項目に対して介入し抑うつ・不安の軽減を図る. ⅱ症例が将来大切に感じる作業を家族と共有.
【経過】1期(1〜4週):今後の作業に目を向け始めた時期
傾聴を続けていくと症例から「どんな事が今後できるか」と発言があり,再度SEIQoL-DWを実施.各項目1~5 (レベル%・重み%・重要性)にて記載.「1仕事(20・60・12)」「2家族(15・20・3)」「3スポーツ観戦(10・10・1)」「4読書(10・5・0.5)」「5お酒(10・5・0.5)」.「仕事」「家族」は重要度が高く,症例も「家庭・社会で役割を得たい」と発言があった.HADS:抑うつ11点,不安13点.SEIQoL-DW:18点.
2期(5〜8週):病気と折り合いをつけながら,作業に取り組み始めた時期
5項目の介入開始.「仕事」は就労支援への移行を提案しPC操作等の評価や現状能力の把握を実施.「家族」は家事や買い物,家庭内で症例が行える事を家族と共有.「スポーツ観戦」「読書」「お酒」は余暇活動として将来も楽しみたい旨を家族と共有.SEIQoL-DWを最終評価した.「1仕事(50・60・30)」「2家族(40・25・10)」「3スポーツ観戦(30・10・3)」「4読書(35・5・1.7)」「5お酒(20・5・1)」HADS:抑うつ5点,不安4点.SEIQoL-DW:45.7点.
【最終評価】HADS抑うつ5点/不安4点 SOPI:セルフケア11点/生産的活動10点/余暇活動12点「仕事が休みの日は家事をしてできる限り家族に協力したい」等の発言があった.
【考察】SEIQoL-DWは神経難病患者の作業療法を促進するのに有効であった.Wade DTは目標設定は,クライエントの作業療法への参加を促す,モチベーションを高め,更にQOLを高める効果が期待できる事も報告されている.SEIQoL-DWを用いた事で当事者と支援者の目標が明確になり,当事者主体の作業を実践できる事が考えられる.