第57回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-7] ポスター:神経難病 7

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PE-7-1] 薬剤関連進行性多巣性白質脳症への作業療法の取り組み

鈴木 ひなの1, 下田 亜由美1, 秋山 恭延1, 加藤 洋聡2, 山内 克哉3 (1.浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.獨協医科大学埼玉医療センターリハビリテーション科, 3.浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション科)

【はじめに】薬剤関連進行性多巣性白質脳症(以下,PML)は,潜伏感染しているJCウイルスが再活性化し中枢神経に多発性の脱髄病巣を来す疾患である.平均予後3ヶ月であり有効な治療法の報告はなく,リハビリテーション治療の報告も少ない.今回,神経症状の増悪と回復を経験した患者のOT経過を役割に着目して報告する.
【症例紹介】50歳代男性.右利き.会社員.診断名:PML.現病歴:X-3年,母子間生体腎移植以降,免疫抑制剤内服.X-1ヶ月,右上肢麻痺出現し前院入院.MRIにて,左頭頂葉に脱髄病変を認めた.X-10日,薬剤関連PMLと診断.X-7日,免疫抑制剤調整目的で当院脳神経内科転院.X-1日,病巣拡大に伴い神経症状増悪.X日,OT開始.家族情報:妻と子供二人と4人暮らし.役割:経済的,精神的に家族を支える父親.発表に際し,症例より同意を得ている.
【入院時評価:X日】主訴:「右手足が動かない.家族に申し訳ない.」BRS(右):上肢I手指II下肢II.感覚:表在深部とも右上下肢鈍麻.握力(右/左):0.0/33.5kg.高次脳機能:失語,注意機能低下,MMSE21点.基本動作:起立/立位保持;軽介助.FIM:63/126点(運動43点,認知20点).PPS(Palliative Performance Scale):総合50%.心理面:悲観的な発言が多く流涙過多.Hope:「家族へ手紙を残したい.」Needs:利き手交換,ADL維持.問題点:右上下肢運動麻痺,意思疎通困難,書字困難,注意機能低下,悲哀的.目標:ADL介助量軽減,家族へ向けた手紙とビデオレターの作成.訓練:利き手交換,左手でのADL訓練,右上肢機能訓練.
【経過】X+5日,免疫抑制剤減量.X+33日メファキン開始.X+40日から徐々に神経症状改善し,X+47日の評価でBRS(右):上肢IV手指IV下肢III.握力(右/左):11.0/35.0kg.基本動作:自立.PPS:総合60%と改善.「右手を良くして右手を使って生活したい」など前向きな発言がある一方,「復職できるのか」と不安や焦りがあった.訓練:両手でのADL訓練を開始.更なる身体機能改善を目指した右上下肢機能訓練実施.訓練中は症例の言葉を傾聴し,身体機能やHOPEの変化に合わせて目標設定や訓練内容を変更した.
【退院時評価:X+133日】BRS(右):上肢VI手指VI下肢III.握力(右/左):11.5/36.0kg.高次脳機能:失語,注意機能低下.基本動作:修正自立.FIM:96/126点(運動64点,認知32点).PPS:総合70%.心理面:表情や口調は落ち着き前向きな発言が聞かれた.Hope:「掃除や家事をしたい.通院のために電車やバスを使いたい.」転帰:リハビリテーション目的で回復期病院へ転院.
【考察】予後不良といわれる薬剤関連PML患者に対し,QOL維持向上を目的とし,病勢変化に合わせたOT介入を行った.神経変性疾患患者は,身体機能や高次脳機能の障害だけでなく,ADL低下,役割や居場所の喪失を経験する.岩本は「(がん療養者に対する)OTは,役割や楽しみに繋がる支援によって,生活に快適な感覚をもたらす」と述べている.症例は,価値観の転換や生活の再構築を経て,役割の再獲得に至った.症例の発言を傾聴し訓練に反映することは,病気の受け止めや役割獲得を支援できQOL向上の一助となる.