第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-10] ポスター:がん 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-10-1] 乳房切除術及び腋窩リンパ節郭清術後における肩関節屈曲可動域の早期回復群と遅延群の比較

藤井 美晴1, 永井 育代1, 奥田 咲穂1, 久保 慎一郎2, 藤井 俊宏3 (1.福山市民病院医療技術部リハビリテーション科, 2.福山市民病院乳腺甲状腺外科, 3.福山市民病院リハビリテーション科)

【はじめに】乳がんの外科療法のうち腋窩リンパ節郭清を行うことで退院時の肩関節屈曲,外転可動域制限が生じる場合があると報告されている(前田博士ら.2007).また,腋窩リンパ節郭清術後には肩関節可動域制限が高頻度でおこり,適切な介入を行わないと可動域制限が数ヶ月~数年持続すると示されている(古谷純朗ら.2015).入院中のリハビリテーション(以下,リハ)の有用性は多く報告されているが,退院後も継続して外来リハを行っている報告は少ない.本研究の目的は術後1年の経過の中で可動域の推移を調査し,早期に回復する群(以下,早期群)と遅延する群(以下,遅延群)の特徴を検討することである.
【方法】2019年5月1日から2021年4月31日の間に乳がん乳房切除術及び腋窩リンパ節郭清術を施行され術前術後リハを実施した女性患者63名(年齢57.7±13.9歳)を対象とした.当院では,術前からリハ介入し,退院後も術前肩関節可動域の9割到達するまで乳腺甲状腺外科の外来診察日に合わせて,月に4~5日,20~40分/回程度,肩関節可動域訓練,自主訓練指導,リンパ浮腫予防指導を継続して行っている.本研究では,握力,疼痛評価(以下,NRS),BMI,HAND20,EQ-5D-5Lを術前,退院時,術後2ヶ月,術後3ヶ月,術後1年の時期に評価した.術前肩関節屈曲可動域の9割到達日数の中央値を算出し,早期群(N=31)と遅延群(N=32)とした.統計学的処理はMann-Whitney-U検定を用いて有意水準を5%未満とし,解析ソフトにはSPSSver.27を使用した.本研究は倫理委員会の承認を得た上で,対象患者には本研究の趣旨を説明し同意を得た.
【結果】術前肩関節屈曲可動域の9割到達日数の中央値は41日であった.年齢は早期群62.2±12.7歳・遅延群53.4±12.9歳と有意差があった.握力は術前;早期群19.3±5.3㎏・遅延群23.0±6.9㎏,退院時;早期群17.7±5.3㎏・遅延群21.6±6.0㎏,術後2ヶ月;早期群19.4±5.1㎏・遅延群22.7±5.1㎏,術後3ヶ月;早期群19.6±4.8㎏・遅延群23.3±5.1㎏,術後1年;早期群19.1±5.5㎏・遅延群23.3±5.7㎏と有意差があった.NRSは術後2ヶ月;早期群1.4±1.8・遅延群2.2±1.9,術後3ヶ月;早期群0.8±0.9・遅延群1.6±1.2と有意差があった.BMI,HAND20,EQ-5D-5Lは有意差はなかった.
【考察】肩関節屈曲可動域の早期群と遅延群を比較すると,年齢,全ての時期の握力,術後2ヶ月と3ヶ月のNRSに有意差があった.遅延群の特徴として,年齢は若く,握力は強く,NRSは高い傾向があった.NRSは術後2ヶ月と3ヶ月で有意差があり,若年者において痛覚閾値が低い傾向が見られた(宮本靖義ら.2009)と報告があることとも一致する.また,がんリハのガイドラインではAxillary Web Syndrome(以下,AWS)を発症するリスク因子として,若年者が挙げられていることからAWS発症による疼痛も関与している可能性があり,そのことが肩関節屈曲可動域の回復遅延に影響したと考えられる.
 周術期リハでは,高齢者は術前の身体機能が低く,術後十分な回復が得られず,日常生活動作の低下を来たす可能性が高いため高齢者に対して介入することが重要(西田大輔ら.2014)と報告されているが,本研究では若年者の回復が遅延しており,周術期リハでの報告とは異なった結果が得られた.そのため,乳房切除術及び腋窩リンパ節郭清術後におけるリハでは,若年者が遅延する原因を調査し,回復を早めるためのプログラムを考えていく必要があると考える.また,術前肩関節屈曲可動域の9割到達日数の中央値は41日であったことから,入院中の介入だけでは回復が困難であり,退院後も外来リハを継続して行う必要があると考えられる.