第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-10] ポスター:がん 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-10-2] SBIを用いた乳房再建術後患者への作業療法の必要性の検討

渡邉 大貴1, 青木 啓一郎2, 駒場 一貴1,2, 黒岩 澄志3, 加藤 洋志1 (1.昭和大学藤が丘病院, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科, 3.昭和大学保健医療学部理学療法学科)

【はじめに】乳がん術後患者は,上肢の機能障害とQOLの低下を合わせ持っており,さらにはADLやIADLに影響を及ぼす.当院ではシリコンブレストインプラント(SBI: silicon breast implant)を用いた乳房再建術の患者が増加している. SBIを用いた乳房再建術の治療成績は良好な結果が示されているが,上肢機能,精神心理面,QOLに関する調査は乏しい.そこで本研究の目的はSBIを用いた乳房再建術後の上肢機能,精神心理面,QOLの変化について調査を行い,SBIを用いた乳房再建術後患者の作業療法の必要性について検討する.
【方法】対象は,2022年1月から2022年12月において,当院で乳がんの乳房再建術(1次2期再建術)を施行した例とし,再建術後皮膚感染でティッシュエキスパンダーを抜去した例は除外した.調査項目は年齢,患側(術側),乳がんのstage,職業の他に手術前日(術前時),術後3か月,術後6か月における関節可動域(肩屈曲・肩外転), DASH,HADS,EORTCQLQC-30をカルテより後方視的に収集した. 術前時,術後3か月,術後6か月の変化について関節可動域(肩屈曲・肩外転),DASH(機能,仕事),HADS(不安,抑うつ) ,EORTCQLQC-30(15項目)についてWilcoxson符号付順位和検定を用いて検討した.有意水準は 0.05 とし,倫理的配慮として当該機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
なお,当院のSBIを用いた乳房再建術のプロトコールは手術前日に入院し,ドレーン抜去後の翌日(入院期間は10~14日)に退院となる.術側上肢の安静期間は術後2週間から6週間の肩屈曲外転90°制限を行い,その後は安静解除としている.
【結果】解析の対象となったのは女性10例であり,年齢50.7±7.6歳,術側(右:5例,左:5例),乳がんのstageは0:1例,Ⅰ:3例,Ⅱ:4例,Ⅲ:1例,職業は専業主婦2例,事務職6例,看護師1例,幼稚園教諭1例であった.術前時から術後3か月では,関節可動域(肩屈曲)は180±0°から155.5±18.9°, 関節可動域(肩外転)は180±0°から154.4±24.9°に有意に低下し,DASH(機能)は0.72±1.06点から15.1±12.9点と有意に高い値を示した(P<0.05).一方,EORTCQLQC-30情緒の項目では77.4±16.2点から93.3±9.4点へ有意に改善した (P<0.05). 術後3か月から術後6か月では, 関節可動域(肩屈曲)は155.5±18.9°から178±4.2°, 関節可動域(肩外転)は154.4±24.9°から178±4.2°で有意に改善した (P<0.05).
【考察】術前時から術後3か月では,術後2週間から6週間の肩関節(屈曲・外転)90°制限による不動の影響や創部の治癒過程において軟部組織の短縮が生じやすく瘢痕拘縮により関節可動域が低下し,DASH(機能)では頭上に挙げる動作項目において使用困難感を示したため,肩関節(屈曲・外転)の可動域制限によってDASHの点数が上昇した可能性が考えられる. また,術後3か月から術後6か月では,創部が治癒に伴う日常生活の上肢の使用が増えたことにより,瘢痕組織の柔軟性や伸張性が改善して肩関節(屈曲・外転)の可動域向上に繋がったと考えられる.術前時から術後3か月におけるEORTCQLQC-30の情緒項目については,術前時では手術による自身の乳房が喪失する外観の変化に対する不安により低下を示した可能性があり,再建術後は乳房を注水することで,胸が膨らみボディイメージが改善されたことで点数が向上したと考える.
本調査の結果,術後早期では関節可動域制限を起こす可能性があり,それに伴い上肢使用困難感を伴うため,今後は再建術後早期より術側上肢の運動療法が実施できる資料を作成し,なるべく術後関節可動域制限を作らないような取り組みが重要であることが示唆された.