第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-10] ポスター:がん 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-10-4] 乳がん術後作業療法対象者の上肢機能の関連要因

西尾 優也1, 垣内 優芳1, 井上 慎一1, 内田 智子2 (1.神戸市立西神戸医療センターリハビリテーション技術部, 2.神戸大学大学院保健学研究科)

【はじめに】乳がん術後には肩関節可動域制限,疼痛,筋力低下などの上肢機能障害が出現し,家事や仕事など日常生活に悪影響を与える.上肢機能障害に関して,術前と比較して術後3カ月で困難感のある症状を有している症例が多いことが報告されているが,上肢機能障害に関連する要因や術後の傾向,肩関節可動域制限との関連に関する報告は乏しい.本研究の目的は,上肢機能と肩関節可動域制限の関連を明らかにすることとした.なお,本研究は当院倫理審査委員会の承認(2022-42)を得て実施した.
【対象および方法】本研究の対象は2020年4月~2021年8月の期間に,当院で乳がんに対して腋窩リンパ節郭清術を伴う手術を受けた18歳以上の症例かつ入院後術前から作業療法を開始し,術後3カ月まで外来作業療法を継続した人とした.除外基準は(1)男性(2)術前から日常生活に支障を来すような意思疎通の困難さがある人(3)本研究に対して不参加の申し出があった人(4)臨床情報に欠損値のある人,とした.その結果対象は23名であった.上肢機能評価としてQuick DASH JSSH Version 機能障害スコア(以下,Q-DASH)を用い,評価時期は術前,外来初回,術後1カ月,術後2カ月,術後3カ月,肩関節屈曲可動域(以下,ROM)の評価時期は術前,退院前,外来初回,術後1カ月,術後2カ月,術後3カ月とした.Q-DASHに関して,術後3カ月の点数が術前以下であった場合を改善群,術前を超える場合を悪化群に分類し,改善群が12名,悪化群が11名となった.
統計処理として,各群における基本的な患者背景で年齢,身長,体重,BMIはShapiro-Wilk検定で正規性を確認した後,対応のないt検定またはMann-Whitney検定で比較した.術側,病期,術前治療,術式,腋窩郭清レベル,術後補助療法,合併症,仕事,スポーツは,χ2検定またはFisherの正確確立検定を用いた.2群におけるQ-DASH,ROMの推移に関しては分割プロット分散分析を用いた.以上の統計解析には,統計ソフトR(ver.4.1.2)を使用し,いずれの統計処理も有意水準は5%とした.
【結果】改善群と悪化群における患者背景に有意な差はなかった.
Q-DASHについては,群,期間要因に有意な主効果と交互作用があり,群間比較では,術後1カ月, 2カ月, 3カ月で改善群の点数が有意に低値であった.改善群における期間要因では,外来初回と術後1カ月,外来初回と術後2カ月,外来初回と術後3カ月,術前と術後2カ月,術前と術後3カ月に有意な差があった.悪化群における期間要因では,術前と外来初回,術前と術後1カ月,術前と術後3カ月で有意な差があった.ROMについては,群要因に有意な主効果はなし,期間要因に有意な主効果はあり,交互作用はなかった.期間要因では退院時と外来初回時間を除くすべての期間で有意な差があった.
【考察】Q-DASHについて,術前と比較して改善群は術後2カ月以降で有意に低値となったが,悪化群は術後1カ月まで点数が上昇傾向となり,術後3カ月でも有意に高値となった.ROMはいずれの評価時期においても2群間で有意な差はなく,Q-DASHとROMの関連は乏しいことが示唆された.
先行研究では,乳がん術後患者は退院後に不安が強くなることを報告している.乳がん術後は早期退院となるため入院中に十分な上肢の運動を行うことが難しい場合も多く,退院後は術前後での身体的変化や今後の治療,創部痛,漿液腫の出現など不安を助長しやすい状況であるため,精神的側面が患者立脚型評価であるQ-DASHに影響している可能性がある.本研究では不安の評価は実施できていないため,精神的側面を含む継続した介入とその影響を調査することが今後の課題となった.