第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

がん

[PF-11] ポスター:がん 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-11-1] 乳癌,多発骨転移,病的骨折患者の役割の再獲得に向けた作業療法の関わり

石川 美哉子, 紺田 歩優 (医療法人 東札幌病院リハビリテーション課)

はじめに
乳癌,多発骨転移を発症し,上腕骨骨折,一時ADL全介助レベルとなったが,装具装着・放射線療法・化学療法・リハビリテーション(以下リハ)を継続した後に自宅退院し,その後も化学療法・リハ継続の為,短期間の入退院を繰り返し,安静度改善,ADL改善が見られた.現在も病的骨折リスクは依然として高いが,病前の役割の一つだったペットの犬の世話をしたいという新たな目標を持ち,その役割の再獲得に向け介入した患者の作業療法経過を報告する.倫理手続きの順守に関しては当院倫理委員会の承認を受けた.
症例紹介
A氏40代女性(現病歴)右乳癌.頸椎,胸椎,多発骨転移.右上腕骨病的骨折,偽関節,頸椎カラー,硬性コルセット装着.(治療)化学療法,放射線療法,骨修飾薬治療.(家族構成)同居家族:夫,子2人,室内犬2匹(中型犬).近隣の両親,義両親の援助あり.(訪問看護)入浴や処置等,週2回(ニード)トイレで排泄,階段昇降自立(デマンド)犬の排泄物を拾い上げたい,犬を抱っこしたい.(作業療法評価)●FIM:当院初回入院時(X年2月)90点,病的骨折後(X+1年1月)56点,最終評価(X+1年12月)107点●筋力:下肢・体幹・左上肢MMT3→5,右上肢MMT1→4
作業療法経過
(長期入院→退院からの短期入退院の経過) 【X+1年3月】起き上がり,移乗,移動(車椅子足漕ぎ)全て見守り~一部介助,歩行禁止,尿カテーテル留置.入院中ポータブルトイレ→トイレ排泄を希望.尿カテーテル抜去,トイレ排泄となる.(自宅ではポータブルトイレ使用継続).下肢筋力訓練開始.【X年+1年4月】手摺り軽介助で歩行訓練開始(10m程).右上肢痛,自制内.右上肢可動域拡大,両手での洗髪可能.【X年+1年5月・6月】歩行訓練継続(20m~30m).段差・階段昇降練習開始,自家用車乗降可能,介護タクシー利用終了,自宅の階段昇降可能(家族介助あり).入院中のトイレ動作,見守り→自立.【X年+1年11月】コルセット外し移乗・車椅子自走,歩行訓練開始.「家で動けるし,犬達のうんち取りたい」,コルセット装着でしゃがみ動作訓練開始,動作可能となる.「暴れない軽い方の犬だけ,抱っこ出来るようになりました」車椅子乗車中に,犬を膝の上に乗せ,抱える事が可能となる.
考察
ADL動作自立が増え,喪失していた役割の一つである愛犬の世話を再開という新たな目標を持つことが出来た.犬の排泄物を拾うしゃがみ動作は,骨転移部位に負荷がかかる動作であったが,運動療法と動作の反復訓練を実施,安全なしゃがみ動作が自立となった.犬を抱き抱える事に対しては,右上肢の禁忌動作の再確認と動作指導を行い,犬を持ち上げることは出来ないが,車椅子座位の膝の上に乗せ抱える事は可能となった.田尻らは,緩和医療における作業療法士の役割として「喪失感,コントロール不全,苦痛,孤独感をなるべく軽減するために~中略~社会的役割を再獲得できるよう援助することであり,心身の苦痛や喪失感を軽減するために様々な作業活動を導入することである.」と述べている.今回は整形医の指示の下,運動療法,骨転移部位や病的骨折部位に対する動作指導を繰り返し行い,身体状態に合わせた関わりが継続出来た.そして患者の大切にしている犬の世話が再び出来た事で,社会的役割,家庭内役割の再獲得につながった.引用文献:緩和医療学 vol.10 no.3 2008「緩和医療にかかわるチームメンバー第7回 作業療法士」