第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-11] ポスター:がん 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-11-2] 日常生活活動の再獲得前の調理実践により自らの生活に積極性を取り戻した脳腫瘍による重度片麻痺を呈した症例

平山 美里, 佐藤 舞, 岡 徳之, 酒向 正春 (医療法人社団健育会ねりま健育会病院回復期リハビリテーションセンター)

【序論】回復期リハビリテーション病院に入院した脳腫瘍により重度片麻痺を呈した症例に対し,身辺動作の獲得に先行し,病前の役割活動であった調理を行った.結果,リハビリテーション治療や病前の活動に対し心情が前向きに変化し,化学療法の効果も含めて身体機能の向上がしたため報告する(発表について,本人より口頭,書面にて了承を得た).
【目的】リハビリテーション介入において,生活行為の獲得や身体機能の改善に先行し,病前の役割活動を実施することによる心理的効果の要因を患者の訴えから振り返る.
【方法】症例は,右前頭葉膠芽腫を呈した70歳代の女性である.17病日目に初回の化学療法(テモダール治療)を実施した後,76病日目に当院に入院された.機能改善が見込まれたため,以降は4週間に1度,5日間の化学療法のための転院加療と当院でのリハビリテーション治療を繰り返した.76〜85病日目の重度運動麻痺を認め(Brunnstrom Recovery Stage [BRS]:上肢Ⅰ,手指Ⅰ,下肢Ⅱ),表在感覚は正常,深部感覚は軽度鈍麻であった.Mini-Mental State Examinationは29点であった.Functional Independence Measure(FIM)の運動項目は22点で重度〜中等度介助を要した.症例自身の希望は,入浴以外の身辺動作の獲得であったが,疾患の予後や,運動麻痺が重度であることから絶望感を感じており,家族の為に治療に取り組んでいる状態であった.1クール目の化学療法終了後には,副反応により,治療継続に消極的な発言を認めた.手指の集団屈曲が出現し,機能回復を喜ばれる反面,治療動機に変化はなく,障害による生きづらさを訴えていた.作業療法では,上肢機能練習や日常生活動作練習と並行し,精神賦活を目的に調理を定期的に実施した.3クール目の化学療法終了後の151〜156病日目には,家族に食事やお菓子を作りたいとの希望が聴取された.その際の身体機能は,上肢の運動麻痺は改善を認めたが依然重度であった(BRS上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅲ).FIMの運動項目は48点と座位でのセルフケアは獲得されたが,他は介助を要した.他職種の協力を得ながら調理をする中で,立位での作業時間が延長し,症例が自己で振り返り,排泄動作の獲得に向けた前向きな発言が聴取された.4クール目以降の実施では,麻痺手を自発的に使用する様子が散見され,実施時間の半分以上を立位で取り組まれるようになった.
【結果】210〜219病日目には,BRSは上肢Ⅲ,手指Ⅴ,下肢Ⅳに向上し,上肢の深部感覚も正常となった.FIMの運動項目は,57点と入浴以外のセルフケアは修正自立〜見守りとなった.症例より,リハビリの一貫で調理を行ったことは自信となり,自宅でも孫にお菓子を作りたいとの希望が聴取された.また,入院期間を振り返り,身辺動作を自立したい,各職種の熱心な指導に応えなければといった心情が生まれていたことが聴取された.
【考察】介入を通じ,身体機能の向上に加え,活動へ前向きな心情に繋がった背景には,病前の役割活動を早期に実践し,成功体験を得たことが影響したと考える.また,身辺動作と同一要素の行為の経験が内的動機づけを促し,リハビリテーション治療への意欲の向上に繋がったと考える.加えて,スタッフの関わりは症例の意欲を変化させるために重要な要素であると考えられた.
【結論】重度の片麻痺患者であっても,病前役割としていた活動を先行して実施することは,失敗体験を防ぐ配慮は必要だが,本人の自信や,活動への意欲を促す可能性が示唆された.同時に,医療者の言動は患者の意欲に関わることを意識することが重要である.