第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-11] ポスター:がん 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-11-3] QOL を継続的に評価し,音楽活動を再開した脳腫瘍患者の事例

堀内 大樹1, 廣瀬 里穂2 (1.IMS(グループ) 明理会中央総合病院, 2.目白大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】脳腫瘍患者に対したQOL評価の研究は多く見られるが,継続的にQOLスコアを追った事例の報告はほとんどみられていない.今回,悪性腫瘍患者の Hope を聴取し,長期間行えていなかった作業活動が再開できるよう目標を段階的に設定・介入を行い,作業療法評価とがん患者特有のQOL評価を入院〜退院の期間の推移・変化を記録した.その結果,QOLが向上し,作業再開に至ったため以下に報告する.本報告に際して,本人に同意を得ている.
【事例紹介・作業療法評価】40歳代の男性.妻と二人暮らし.職業はSEで音楽家としても活動しており,特にピアノを演奏していた.脳腫瘍発症から7年経過後に,再発による右片麻痺増悪を認め,放射線治療のため入院となった.翌日より作業療法開始,面接・評価を実施した.
<面接>「仕事で疲れないようにしたい」と話があり,復職の優先順位が高く,仕事ではパソコン操作が必要である.また,発症から7年間,音楽活動はほとんど行っていなかったが,「趣味として続けたい」と話した.
<QOL>QLQ -C30を使用.運動機能:60/100,趣味や仕事などの遂行:17/100,
学習・記憶:50/100,情緒:67/100,家庭や社会における役割:50/100,健康度:58/100
<身体面>FMA:60/66,MAL(AOU:0.9/5.0,QOM:1.2/5.0),STEF(右):55/100
<ADL>FIM:117/126(運動項目:83/91,認知項目:34/35)
職場復帰・音楽活動をするにあたり,麻痺側上肢分離運動の低下,麻痺側上肢の使用頻度低下による作業経験が乏しく,易疲労性が問題に上がった.
【経過・結果】作業療法介入は,週 6 回,2 か月間であった.最初の 1 か月間は復職に向けた機能練習に加え,実用的なパソコン操作練習や要約の練習を実施し,自主練習として,パソコン操作と楽器を提供した.中間評価では上肢機能は改善したが,放射線治療や入院期間の長期化による疲労感の訴えが増え,時折リハを拒否することがあり,QLQ-C30運動機能項目は減点していた.しかし,提供した楽器に対して「この動きが出来ればピアノも弾けるかな」など,会話の中でピアノが多く聞かれた.そのため,本人希望が強いピアノに着目し,右手の使用頻度を増やし,気分転換も含め病室にキーボードを設置できるように調整した.音楽活動を作業療法に取り入れると,以前のように演奏ができないことへの葛藤が伺えたが,日数を重ねるにつれ,表情は豊かになり,前向きな発言は増え,疲労感の訴えも減った.また,キーボードで簡易な曲を弾くことができ,他の患者の誕生日に演奏を行う機会を設けた.放射線治療期間が終了し,自宅退院となったが,失語症状が軽度残存していたためSTのみ外来で継続し,作業療法は終了とした.退院後は,短時間で職場復帰しており,自宅で演奏,作曲活動を再開している.最終評価は下記の通りである.
<QOL>運動機能:60/100,趣味や仕事などの遂行:50/100,学習・記憶:83/100,
情緒:92/100, 家庭や社会における役割:100/100,健康度:50/100
<身体面>FMA:64/66,MAL(AOU:4.0/5.0,QOM:3.7/5.0),STEF(右):87/100
<ADL>FIM:121/126(運動項目:87/91,認知項目:34/35)
【考察】本事例より,脳腫瘍患者に対して復職に関する上肢機能への介入ではQOLの向上に繋がらず,本人の意味のある作業であった音楽活動に繋げることでQOLが向上した可能性があると考えられる.悪性脳腫瘍患者のQOLスコアの推移・変化をみることで,治療上の問題点が明らかになり,その対策やリハ,介護を考える事ができるといわれている.今回,がん患者特有のQOL評価表であるQLQ-C30を使用し,運動機能のQOLの数値の低下に気づき,それに対して介入の方向性を修正した.この評価を用いることで,作業に対する問題点も明確になり,本人にとって意味のある音楽活動再開への支援が行えたと考える.