第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-12] ポスター:がん 12

Sat. Nov 11, 2023 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-12-2] 脳腫瘍患児の復学支援会議において作業療法士の役割と今後の課題

高木 日出美1, 久保田 菜央1, 久保 匡史1, 俣木 優輝2, 石川 公久1 (1.筑波大学附属病院リハビリテーション部, 2.筑波大学附属病院リハビリテーション科)

【はじめに】
 小児がんの治療を受ける子どもの入院日数は他の疾病に比べ長く,治療中に入退院を繰り返す. そのため, 居住地校から院内学級への転校手続きをとる. 治療終了後, 居住地校への復学に際しては身体機能障害や高次脳機能障害により活動の制限や学習面への影響, 友人関係の問題等が生じることを配慮して復学支援会議を開催することが多い. 今回, 脳腫瘍患児に対して復学支援会議を実施し, 居住地校との連携を図った経験から復学支援会議での作業療法士(以下OT)の役割と今後の課題について報告する.
【対象】
 脳腫瘍と診断され, 治療のため入院, 院内学級に転校となり, 復学支援会議を実施した3例を対象とした. 症例A:小5男児, 右基底核胚細胞腫瘍. 症例B:中2男児, 鞍上部胚細胞腫瘍. 症例C:小6男児, 右基底核胚細胞腫瘍. 病前に自閉傾向や注意欠如・多動性障害(以下ADHD)傾向あり. 尚, 報告にあたり対象児の両親・本人から同意を得ている.
【方法】
 復学支援会議には両親, 本人, 居住地校の教員, 院内学級の教員, 主治医, 理学療法士, OT, 言語聴覚士, 心理士が参加した. 各職種から配慮点や代償手段の提案, 両親からの要望, 居住地校からの質疑を行った. OTからは①上肢機能②生活面③精神面について以下の提案を行った. 症例A:①軽度左上下肢麻痺, 左手不使用傾向. 両手動作の苦手さあり. ②ADLは自立. 工作や給食の配膳, 清掃(ぞうきん絞り)等の両手動作で努力性あり. ③できることは自分でやりたいという思いがあり, 時間を要す場面もあるが見守ってほしい. 自分の思いを言葉にする苦手さあり, 話を聞く場を設ける. 症例B:①全般的に動作緩慢. ②ADLは自立だが, 時間を要す. ③複雑な課題には混乱や気分の落ち込みあり. なるべくポジティブな声かけを行う. 症例C:①軽度右上下肢麻痺あり(右利き). ②ADLは自立. 書字は巧緻性や協調性低下, 処理速度低下あり, 大きいマス目や電子機器で撮影を提案. 安全管理が必要な場面(家庭科・理科の実験など)は介助が必要. ③持続性注意の低下, 衝動性の高さあり, 声かけが必要.
【結果】
 症例A・Bは学校側の協力的な反応があり復学に至った. 症例Cは学校側から「児だけに特別な対応はできない」と非協力的な発言. そのため, 学校訪問で動作確認や環境評価し指導を実施した. 訪問後は「思ったよりも動けていて安心した」と前向きな発言が聞かれ, その後復学に至った.
【考察】
 今回, 復学支援会議を実施し, 心身機能を踏まえ, 復学後の生活動作や授業で想定される動作の支援方法を提案することがOTとして重要な役割であった. また, 入院中に見られた本人の特性に配慮した関わり方を伝えることで, 復学後の児の精神的負担の軽減につながることが予測される. 症例A・Bより症例Cは, 生活場面で介助や安全への配慮がさらに必要である. また, 症例Cは元々自閉傾向やADHD傾向があるため, 復学後の生活面・学習面の支援や医療的なリスク管理に対する責任や不安から非協力的だったのではないかと考えられる. 復学支援は, 医療と教育との異なる領域の専門職が協働するため, お互いの視点や役割の違いを理解した上で支援に臨む必要がある. 今後は, 入院中から医療と教育での連携が図れる体制をつくることで, 児の経過や現状を把握し, 円滑な復学支援につなげていくことが課題と考える.