第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-12] ポスター:がん 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-12-4] 肺がんによる転移性脳腫瘍術後の1症例の作業療法の経過

坪井 理佳1, 佐橋 健斗1, 山下 豊1, 前野 健2, 植木 美乃1 (1.名古屋市立大学病院リハビリテーション科, 2.名古屋市立大学病院呼吸器内科)

【はじめに】肺癌を原発巣とする転移性脳腫瘍の摘出術後に左麻痺と左半側空間無視が悪化した患者の作業療法を行った.薬物療法により腫瘍が縮小し,リハビリテーションの結果,自宅退院を目指すことが可能となった症例を経験したため報告する. 発表に際し本人に了承を得ている.
【症例】60代女性.職業 事務職.独居(子供3人別居)
【現病歴と経過】X年Y月Z日,歩行障害にて救急外来を受診し,脳腫瘍と診断され,脳外科に入院となった.Z+1日,作業療法(OT)と理学療法(PT)が開始となった.Z+4日,肺癌疑いで呼吸器外科を受診.ALK肺腺癌ステージIVと診断された.Z+15日,脳腫瘍摘出術を施行した.Z+21日,薬物療法を開始した.その後,胸腹骨盤CTにて腫瘍量は減少し,脳MRIにて多発脳転移も縮小した.Z+62日,左半側空間無視は残存していたが,ADLは改善し,自宅復帰を目指してリハビリテーションと薬物療法が継続可能な病院へ転院した.
【放射線科所見】<入院時>脳MRI:右頭頂葉に腫瘤性病変と周囲脳浮腫,結節性病変を認めた.肺CT:左肺門部に腫瘍性病変を認めた.気管分岐下と右気管前と左肺門にリンパ節が増大し,左肺舌区は無気肺で左胸水あり.<退院時>MRI:脳腫瘍は縮小した.肺CT:原発巣は若干縮小し,肺野結節影は縮小傾向であった.
【OT所見と経過】入院前の様子:布団カバーをかけられなかったり,服のボタンがはめられなかった.「おかしいと思ったが,私はできる」と思っていた.<開始時(術前)>MMSE:28 HDS-R:28 FAB:12/18 BIT:120/146 消去現症:陽性.左半側空間無視あり.S-PA:有関係 7-9-10 無関係 0-0-0.数唱:順唱 6桁 逆唱 4桁.運動機能 BRS-T(左):上肢 V 手指 V 下肢 IV.感覚:表在深部とも鈍麻.STEF:右 97 左 83.ADL:Barthel Index(BI) 85.OTでは左半側空間無視の練習と手指巧緻性練習を実施した.その結果,左手で爪切りが可能となるなどの改善が見られた.
<手術後再開時>MMSE:25 HDS-R:28 FAB:13/18 BIT:55/146 右向き兆候は顕著で,左半側空間無視は悪化した.運動機能 BRS-T(左):上肢 Ⅳ 手指 Ⅴ 下肢 Ⅳ 感覚 表在深部とも悪化.起居動作:起き上がり 介助,端坐位 自立,歩行 平行棒内軽介助. ADL:BI 65.OT介入時は左半側空間無視の机上の練習,上肢機能練習,更衣動作練習,ラジオ体操など,机上の課題と全身運動を行った.更衣動作練習では,着衣動作時に左右が混乱した.ラジオ体操は右を向き,左上肢は動かさなかった.状況により左上肢を誘導した.悩みは傾聴し,精神面のフォローをした.<退院時>MMSE:28 HDS-R:30 FAB:14/18 BIT:127/146.S-PA:有関係 7-10-10 無関係 0-0-1.運動機能 BRS-T(左):上肢 IV 手指 IV 下肢 IV.感覚:表在深部とも軽度障害が残存.ADL:BI 85.ラジオ体操は左方向への移動が可能となった.症状が改善し,自宅退院を目指して転院となった.
【考察】肺癌の予後は不良で,本症例も未治療であれば半年,治療により2~3年と説明された.脳腫瘍摘出術後は麻痺や半側空間無視が悪化し,ADLは低下した.一般的にADLが低下した担癌患者は病みの軌跡が低迷する.しかし,ALK肺腺癌は薬物療法の効果があるといわれており,本症例を通して,ADLが低下しても病みの軌跡は改善する可能性があることを経験した.今後,薬物療法の進歩により担癌患者の延命が可能となる.患者のADLを高めることで良好な生活の延長も期待できると考えた.