[PF-2-1] 頸部郭清術後の僧帽筋上部線維における疲労出現は肩関節外転運動で早まる
【はじめに】頭頸部がん患者はリンパ節転移を管理,制御するため,頸部郭清術が実施される.頸部郭清術では,副神経を切除,または温存する術式を選択されるが,温存例でも20-60%で副神経麻痺による肩関節機能障害が生じる(Veyseller. 2010).機能障害に対する運動療法では,肩甲帯筋群強化を狙った反復運動の効果が示されつつある(McNeely. 2004).一方,副神経麻痺による僧帽筋上部線維の出力低下は,肩甲骨の挙上と回転運動制御に難渋する(Van. 2004).この場合,肩関節の外転と屈曲制限が生じやすく,特に外転制限は疼痛の誘因となり(Almeida. 2020),僧帽筋負荷量を最適化したエクササイズが課題である.筋活動の定量化には筋電図が利用され,周波数因子解析で一連の活動を時系列に疲労評価ができる(Castelein. 2016).副神経麻痺を呈した患者の外転運動時の僧帽筋負荷量を明らかにすれば,疼痛発生を抑制する運動支援方略考案の基礎データとなり得る.
【目的】副神経麻痺患者の肩関節外転時における僧帽筋上部線維の疲労変化を筋電図周波数解析で検証すること.対象者から発表に際する同意は得ている.開示すべきCOIなし.
【方法】対象:喉頭がん診断後に頸部郭清術を実施した70歳代男性.術後翌日からリハビリテーションを開始.初回評価時の肩甲骨-脊椎間距離の左右差は1.5㎝.筋電測定:筋電図は,Delsys Trigno Wireless EMG systemを使用して,術側と非術側の僧帽筋上部線維膨隆部上に電極を配置した.測定条件は自重および500g重錘負荷での等尺性運動2条件で,肩関節外転30度,60度,90度位において各11秒間のデータを取得した.筋電位データ処理:表面筋電図(sEMG)データは,測定開始から3秒を除外した8秒を1秒ごとにデータを切り出し解析対象とした.sEMG生波形は,パワースペクトル密度関数により処理され,単位周波数毎のパワー分布を算出した.その後,中間周波数(MF)を算出し,MFに至る時間を求めた.MFはパワー分布面積を2分する地点を指すため,MFまで短時間ほど疲労出現が早い.解析は測定条件と肢位ごとに0-8秒のデータを比較した.
【結果】各肢位の0-8秒においてMFまでの時間比(非術側を参照値とする)を比較した結果,自重では肩関節30度で7.1%,60度で3.0%,90度で14.4%,重錘負荷では,30度で17.6%,60度で11.5%,90度で23.7%,MFまで短時間であった.0-8秒を1秒ごとに分割したデータでは,2条件ともに外転90度でMFまでの変化量が最大であった(自重:0.76→0.53,重錘負荷:0.72→0.52).さらに当該肢位で時間比平均を下回るタイミングは,自重で5秒,重錘負荷で2秒時であった.
【考察】副神経麻痺患者における肩関節外転時の僧帽筋上部線維の疲労変化を,筋電図周波数解析を用いて検証した.その結果,疲労は肩関節外転90度位で早期に出現した.僧帽筋上部線維と肩関節外転角度の比較検証では,外転80-120度でのレジスタンストレーニング時の%MVICを72-79%と報告した(Ekstrom. 2003).肩関節外転運動では肩甲骨に下方回旋モーメントが発生し,この制御に鎖骨外側,肩峰,肩甲棘上縁に付着する僧帽筋上部・中部線維が活動する.術側外転時の疲労出現の早まりは,運動時に高い筋出力を要する僧帽筋上部線維の弱化を効果的に捕捉したと推察する.また,Troianoらは僧帽筋上部線維の50%MVICを超える等尺性運動が主観的疲労出現と正相関すると報告した.本研究では,運動時間中の疲労出現時期を自重および重錘負荷条件で特定しており,客観的指標による疲労出現の根拠となり得る.肩甲帯筋群が強調した運動の最適化には,他筋と肢位変化を含めた更なる検証を要する.
【目的】副神経麻痺患者の肩関節外転時における僧帽筋上部線維の疲労変化を筋電図周波数解析で検証すること.対象者から発表に際する同意は得ている.開示すべきCOIなし.
【方法】対象:喉頭がん診断後に頸部郭清術を実施した70歳代男性.術後翌日からリハビリテーションを開始.初回評価時の肩甲骨-脊椎間距離の左右差は1.5㎝.筋電測定:筋電図は,Delsys Trigno Wireless EMG systemを使用して,術側と非術側の僧帽筋上部線維膨隆部上に電極を配置した.測定条件は自重および500g重錘負荷での等尺性運動2条件で,肩関節外転30度,60度,90度位において各11秒間のデータを取得した.筋電位データ処理:表面筋電図(sEMG)データは,測定開始から3秒を除外した8秒を1秒ごとにデータを切り出し解析対象とした.sEMG生波形は,パワースペクトル密度関数により処理され,単位周波数毎のパワー分布を算出した.その後,中間周波数(MF)を算出し,MFに至る時間を求めた.MFはパワー分布面積を2分する地点を指すため,MFまで短時間ほど疲労出現が早い.解析は測定条件と肢位ごとに0-8秒のデータを比較した.
【結果】各肢位の0-8秒においてMFまでの時間比(非術側を参照値とする)を比較した結果,自重では肩関節30度で7.1%,60度で3.0%,90度で14.4%,重錘負荷では,30度で17.6%,60度で11.5%,90度で23.7%,MFまで短時間であった.0-8秒を1秒ごとに分割したデータでは,2条件ともに外転90度でMFまでの変化量が最大であった(自重:0.76→0.53,重錘負荷:0.72→0.52).さらに当該肢位で時間比平均を下回るタイミングは,自重で5秒,重錘負荷で2秒時であった.
【考察】副神経麻痺患者における肩関節外転時の僧帽筋上部線維の疲労変化を,筋電図周波数解析を用いて検証した.その結果,疲労は肩関節外転90度位で早期に出現した.僧帽筋上部線維と肩関節外転角度の比較検証では,外転80-120度でのレジスタンストレーニング時の%MVICを72-79%と報告した(Ekstrom. 2003).肩関節外転運動では肩甲骨に下方回旋モーメントが発生し,この制御に鎖骨外側,肩峰,肩甲棘上縁に付着する僧帽筋上部・中部線維が活動する.術側外転時の疲労出現の早まりは,運動時に高い筋出力を要する僧帽筋上部線維の弱化を効果的に捕捉したと推察する.また,Troianoらは僧帽筋上部線維の50%MVICを超える等尺性運動が主観的疲労出現と正相関すると報告した.本研究では,運動時間中の疲労出現時期を自重および重錘負荷条件で特定しており,客観的指標による疲労出現の根拠となり得る.肩甲帯筋群が強調した運動の最適化には,他筋と肢位変化を含めた更なる検証を要する.