第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-4] ポスター:がん 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-4-1] 造血幹細胞移植後にHHV-6による高次脳機能障害を併発後,自宅復帰が可能となった症例

高田 明子, 中島 香織, 武永 亜紀 (信州大学医学部附属病院)

【はじめに】Human herpesvirrus 6(以下HHV-6)脳炎は,同種造血幹細胞移植における重要な中枢神経合併症であり,発症時に記憶障害等の症状が報告されている.今回,移植後にHHV-6による高次脳機能障害を合併された症例への作業療法と自宅復帰時に,家族に対する支援を行った経過を報告する.発表に際して,ご本人・ご家族から同意を得た.
【症例紹介】40代,男性.診断名:骨髄異形成症候群.職業:リフォーム業.家族構成:妻,母,子2人.
【現病歴】X年-1ヶ月入院後,移植に向けてOT開始された.X年同種移植施行された.X年+1ヶ月HHV-6脳炎を発症され,意識レベル低下,酸素投与必要となりICUに入室された.CO2貯留あり,鎮静管理にて呼吸器管理となった.10日後,呼吸状態回復され,一般病棟に転棟された.脳波検査で側頭葉に発作波を認めた.X年+2ヶ月自宅退院された.
【経過】初回評価:意識:E4V5M6.体力低下の自覚あり.MMT:上肢4/4,下肢4/4.握力42.5/48kg.ADL:FIM126点.HHV-6脳炎発症までは,体力維持・ADL維持を目的に運動中心の介入を実施した.
ICU介入評価:意識は,E1~3VTM1~6.Fio20.3,PS5,PEEP5,SPO2 90~92%にて呼吸器管理を実施された.ROM:著明な制限なし.MMT:上肢・下肢2-3.上肢・下肢の運動時,覚醒されている間は,自動介助運動が可能であった.全介助で座位保持5分行い,SPO2 95%とやや改善した.ADL:FIM18点.ICU入室中は,呼吸リハ,精神機能賦活,ROM訓練,座位訓練を中心に実施した.一般病棟に転棟後は,自宅復帰を目標に,ADL訓練,高次脳機能評価,記憶障害・注意障害・処理速度の遅延へのアプローチ(生活リズム獲得,メモリーノート,内服管理,机上課題)をプログラムに追加した.
退院時評価:意識は,E1~4V5M6.日中の覚醒保持は困難であり,生活リズムが未獲得.呼吸機能は,ルームエアーSPO2 94%まで回復.麻痺なし.歩行は,連続270mまで可能.易疲労性あり.ROM:著明な制限なし.MMT:上肢4-/4-,下肢3~4-/3~4-.握力:32/-㎏.高次脳機能検査結果:TMT-A41.9秒,B162.6秒.FAB16/18点.MMSE18/30点.三宅式記銘力検査:有関係対語1-3-2 無関係対語1-1-2.リバーミード行動記憶検査 5/24点. WAIS-Ⅳ IQ85.地誌的記憶障害あり,2カ月間入院された居室前の風呂までの移動に介助が必要であった.ニーズ:退院したら直ぐに仕事に行きたい.車・自転車を運転したい.ADL:FIM84点.               退院時指導として,ご本人・ご家族へ高次脳機能障害,ADLの状況,支援の方法,生活上の注意点(仕事・自動車・自転車運転のアドバイス含む)の説明,在宅のリハプログラムを,記憶障害に配慮し,紙面でお渡しし,在宅生活へ移行できた.
【考察】HHV-6脳炎発症患者の予後は不良であり,生存例においても記憶障害等の後遺症を高頻度に残すといわれている.本症例は,体力低下以上にHHV-6脳炎による記憶障害・注意障害・処理速度の遅延に伴うADL低下が退院時にも残存しており,在宅で介助者となるご家族への理解が重要であると考え,ご家族に高次脳機能障害の理解と生活上の指導を行ったことが,円滑な自宅復帰に繋がったと思われた.HHV-6脳炎発症後の生活支援に対しての報告は,非常に少なく,今後の更なる報告を集積することで,在宅復帰,その後の社会復帰への支援の提供・開発に繋がる可能性があると思われた.