第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-4] ポスター:がん 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-4-3] 化学療法実施中の悪性リンパ腫患者における認知機能と身体・精神機能との関連

山口 良太1, 壱岐尾 優太2, 高橋 弘樹1, 光永 済1, 東 登志夫3 (1.長崎大学病院リハビリテーション部, 2.日本赤十字社長崎原爆病院リハビリテーション部, 3.長崎大学 生命医科学域(保健学系))

[緒言]がん患者に認められる認知機能障害は,caner rerated cognitive impairment(CRCI)と呼ばれており,がん治療,倦怠感や不安,抑うつ,痛み,睡眠障害,身体機能,併存疾患など様々な要因がCRCIのリスクを高める可能性がある.悪性リンパ腫患者において,CRCIは倦怠感や不安感,痛み,QOLとの関連が報告されている.しかし,これらの報告は治療終了後のサバイバーを対象とした報告が多く,化学療法中の患者を対象とした報告は少ない.そこで,本研究の目的は,化学療法実施中の悪性リンパ腫患者における認知機能と身体・精神機能や身体症状との関連を検討することとした.
[方法]研究デザインは前向き横断観察研究である.本研究は長崎大学病院臨床研究倫理審査委員会および長崎原爆病院倫理委員会の承認を得て実施した.対象は2021年9月~2022年12月の間に入院し,化学療法実施中にリハビリテーションを行った悪性リンパ腫患者とした.選択基準は,20歳以上で,Performance Statusが3以下とした.除外基準は,精神疾患を有する者,重篤な臓器合併症を認める者,中枢神経原発または脳病変を認める者,認知症や中枢神経疾患の既往がある者,放射線療法や移植治療を実施している者とした.評価項目は,認知機能として,Japanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)およびTrail Making Test(TMT)A・B,身体機能として,握力,5回起立テスト,Timed Up and Go Test,精神機能として,hospital anxiety and depression scale(HADs)の不安・抑うつ,身体症状として,倦怠感をCancer Fatigue Scale,疼痛をNumerical Rating Scale,日常生活活動としてBarthel index(BI),Lawton IADLスケール(IADL)を評価した.データ解析は,MoCA-JおよびTMT-A・Bと各評価項目との相関関係を検討するためにSpearmanの順位相関係数を求めた.また認知機能に影響を及ぼす因子を検討するために,従属変数をMoCA-JおよびTMT-A・B,独立変数を年齢,握力,HADs不安,倦怠感,IADLとした強制投入法による重回帰分析を実施した.統計解析にはSPSS ver.25を使用し,全ての有意水準は5%とした.
[結果]解析対象となったのは40例(年齢平均値71.7歳,男性21名,女性19名)であった.認知機能との関連は,MoCA-Jの合計点と,年齢(ρ=-.491)との間に有意な負の相関関係を,握力(ρ=.316)との間に有意な正の相関関係を認めた.また,TMT-Aの実施時間と,年齢(ρ=.656),HADs不安(ρ=.319)との間に有意な正の相関関係を,IADL(ρ=-.433)との間に有意な負の相関関係を認めた.TMT-Bの実施時間とは,年齢(ρ=.625),HADs不安(ρ=.366)との間に有意な正の相関関係を,BI(ρ=-.443),IADL(ρ=-.367)との間に有意な負の相関関係を認めた.重回帰分析の結果,MoCA-Jに影響を及ぼす因子は抽出されなかった.TMT-Aに影響を及ぼす因子は,年齢(β=.409)とIADL(β=-.397)が抽出され,TMT-Bに影響を及ぼす因子は,年齢(β=.426)とIADL(β=-.366)が抽出された.
[考察]本研究の結果より,化学療法実施中の悪性リンパ腫患者は,筋力が低い者や不安が高い者,ADL,IADL能力が低い者ほど認知機能が低下している可能性があり,特に注意機能に関しては,IADL能力が影響を及ぼしている可能性を示唆している.したがって,身体機能向上や不安軽減を図るアプローチやADL,IADLを改善させることが認知機能の改善に繋がる可能性がある.特に注意機能に関しては,IADL能力が影響を及ぼしている可能性を示唆している.今後は,サンプルサイズを増やし,治療に関連する因子も含めて,縦断的にも検討する必要がある.