第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-4] ポスター:がん 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-4-4] ストレスコーピングスキルを併用した介入が不安の軽減と身体機能の維持に繋がった食道がんの事例

三浦 健太1, 早崎 涼太1,2 (1.社会医療法人孝仁会 北海道大野記念病院リハビリテーション部, 2.札幌医科大学大学院保健医療学研究科)

【はじめに】がんの事例に対して身体機能のみならず,不安や抑うつなどメンタルヘルスに対する介入が重要視されている.今回,食道の通過障害への不安を呈した食道がんの事例に対し,ストレスコーピングスキルを併用したことにより不安の軽減やデマンドである身体機能の維持ができたため報告する.
【事例紹介】80歳代女性.病前生活は,ADL・独歩.現病歴はX−1月に食道に違和感を認め,嘔吐と上腹部痛が出現し当院の消化器内科を受診.下位食道がん(stageⅢ)と診断.Y日より陽子線治療が開始(60GyE/30Fr)され,Y+7日より作業療法が開始となった.
【初期評価】OT面接において,本人のデマンドは「歩ける筋力や体力を維持したい」であった.Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(以下,ECOG-PS)は1であり,6分間歩行試験では350mで修正Borg Scaleは3であった.Cancer Fatigue Scale(以下,CFS)において,総合/身体/精神/認知はそれぞれ23/8/10/5点であった.Hospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS)において,不安/抑うつは15/13点であった.作業療法目標は「現在の身体機能を維持し病前と同様の生活ができる」とし,事例と共有した.がんの進行や食道の通過障害に対し「病気は良くなるのか,飲み込みにくさは治るのかな」,「陽子線の治療がうまくできるかな」と不安の表出が強く,運動への意欲が低下していたため,運動の重要性について指導することが必要と考えた.
【経過】OT面接後より,修正Borg Scaleが3以上にならない範囲での歩行練習やカーフレイズやスクワットなど下肢筋力練習を行った.Y+14日に事例より「食べ物を飲み込んだ時に通りが良くなった気がして気分が良い」,また運動をすることの重要性が理解できてきたとともに「運動が心地よい」と発言を認めた.プログラムは,歩行距離の拡大や下肢筋力練習の負荷量増加,そして,重錘を使用した肩関節をはじめとした上肢の筋力練習を追加した.しかしY+25日,陽子線治療による有害事象を認め,事例に食欲低下や倦怠感が出現し,不安を強く認めた.陽子線治療の有害事象に対する患者教育を行ったが,食欲低下や倦怠感が生じていることへの不安は変化することはなかった.そのため,ストレスコーピングスキルを併用した介入を行うこととした.用いる作業は,興味・関心チェックリストより,塗り絵を選定した.塗り絵を開始してからは,事例より「塗り絵を行っている最中は余計なことを考えないから不安になる時間が減って良かった」との発言を認め,不安を感じた際に,自主練習としても行うことができていた.また,歩行や筋力練習に対しても再び積極的に取り組むことができるようになった.
【結果】Y+55日(退院時),ECOG-PS:1,6分間歩行試験:340mで修正Borg Scaleは2であった.CFSにおいて総合/身体/精神/認知は20/7/8/5点,HADSは不安/抑うつそれぞれ13/7点であった.事例より「作業療法で運動や塗り絵を行えたことで余計なことを考える時間が減った」,「高齢者住宅にいるときよりも運動が行えて体力を維持できてよかった」との発言を認め,作業療法目標は達成された.
【考察】介入当初は目標達成に向かって作業療法が行えていたが,経過の中で有害事象である食欲低下と倦怠感が生じ不安の増大を認めた.塗り絵を用いたストレスコーピングスキルを行った結果,不安が軽減し歩行や筋力練習を積極的に取り組むことができるようになった.これらのことから,がん患者に対するストレスコーピングスキルの使用は不安や抑うつの軽減を軽減させ,目的とする作業に取り組むための手法として有効である可能性が考えられた.