第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-5] ポスター:がん 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-5-1] トルソー症候群による脳梗塞を来した2症例の臨床所見と作業療法経過

戸沢 美希1, 村上 寿一1, 大塚 美里2 (1.国立病院機構 熊本医療センターリハビリテーション科, 2.熊本医療センター緩和ケア室)

【はじめに】
 トルソー症候群は悪性腫瘍に合併する凝固能亢進状態とそれに伴う遊走性血栓性静脈炎をさす.原因となる悪性腫瘍には肺癌,膵癌,卵巣癌など腺癌に合併頻度が高い. 悪性腫瘍に伴う脳梗塞はCA125及びCA19-9とD-Dとの間に相関があることが報告されている.今回,トルソー症候群により脳梗塞を呈した患者と,脳梗塞を機に悪性腫瘍が発見された患者の臨床所見と作業療法(以下OT)経過を報告する.
【方法】
 子宮癌指摘とトルソー症候群により脳梗塞を呈した患者,脳梗塞を機に卵巣癌が発見された患者の2症例の臨床所見とOT経過を提示.
【経過】
 症例①50歳代.1年ほど性器からの不正出血が持続.他院で止血困難であり当院救急搬送.子宮頸癌と診断,同時化学放射線療法.臨床所見はD-dimer(以下D-D)40.96μg/mL,CEA0.8ng/mL,CA19-9 6.6U/mL,CA125 27.1U/mL,Hb10.0g/dL.MRIでは脳梗塞(両側小脳・大脳多発脳梗塞,右中大脳動脈皮質枝閉塞)病変を認めた.四肢麻痺なし,半側空間無視と高次脳機能障害を呈した.入院7日目OT開始.運動機能の維持,高次脳機能練習を主に実施.食事やテレビ操作など身辺動作は可能だったが,離床時は左側にぶつかることや点滴ルートなどに絡まるため介助を必要とした.また更なる血栓予防のため,一定の姿勢を取らないことや自動運動を推奨した. 介入後はD-D5.04まで減少した.入院29日目,排泄移動中に意識消失,SPO2と血圧の急激な低下があり肺塞栓合併, OT中止.D-D26.83,Hb10.5.1週後再開時はD-D19.52,Hb9.6.呼吸練習と起立練習から行った.呼吸苦の自覚症状なくSPO2は90%以上維持.D-D改善していたがHbは低値を推移した.入院後45日経過頃より腰背部の疼痛増強し離床困難となった.D-D0.80,Hb7.6.貧血傾向が強くなっていた.MRIで右後腹膜血腫を指摘.ベッド上リラクゼーションが主となった.高次脳機能は改善傾向にあり左側の見落としもほぼ改善した.しかし全身状態不良により食思減退し日中は臥床,疼痛コントロールが主となり,入院88日にて緩和ケア病院転院となった.
 症例②70歳代.構音障害と視野障害出現し当院搬送.MRIにて脳梗塞(両側後頭葉・小脳)と診断. D-D30.31,CEA7.4,CA19-9 95.6,CA125 535.0.同日CTで卵巣腫瘍を指摘.脳梗塞はトルソー症候群が疑われヘパリン投与開始.入院3日目よりOT開始.Br-stage右上肢手指下肢Ⅴの麻痺.視野は右上1/4左下1/4の半盲を認めた.麻痺側機能練習及び日常生活動作練習を主に実施した.麻痺は徐々に改善傾向にあり右手で書字や箸操作が可能となった.しかし視野障害による食べこぼしありスプーンで摂取していた.入院10日目にはD-D3.97と減少.入院11日目に腹式子宮全摘出,付属器切除術施行.術後翌日より再開した.Hb9.3と貧血傾向はあったが出血は認めず術後の経過は良好だった.視野障害の自覚もあり狭小範囲の身辺動作は可能となった.D-Dも入院時のような高値とならず,リハ目的で他院転院.今後は抗癌剤治療を当院で予定している.
【考察】
 今回,トルソー症候群による脳梗塞と診断された症例の臨床所見を考慮しながらOT介入した.両症例共に腫瘍マーカーは高値,D-Dはパニック値を呈していた.そのような症例に携る際,離床により塞栓を来たすリスクは高く,よりリスク管理を必要とする.特に婦人科腫瘍では非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)の頻度が高いことも報告されており一症例に於いては肺塞栓を来した.また両者貧血傾向もあり負荷の調整も必要だった.介入時のリスクを軽減するためには身体所見評価は元より,臨床所見を把握することで,症状に応じたプログラムを検討することが必要である.
<参考文献>野川茂:がんと脳梗塞-トルーソー症候群の臨床,日本血栓止血誌2916;27(1)