[PF-6-4] 病前から大切にしていた作業の遂行により主体的な言動がみられるようになった脳幹神経膠腫の一例
【はじめに】脳幹神経膠腫により右上下肢の運動失調を呈し,告知により強い気分の落ち込みが認められていた1例に対し作業療法を行った.失調症状に重点的に取り組むことや,病前から大切にしていた作業を取り入れることにより,現実的で主体的な言動がみられるようになったため報告する.
【症例紹介】10歳代の女性.利き手は右であった.X月Y日から眩暈,Y+8日に複視と右上下肢の失調が出現した.前医にて右小脳半球から延髄にかけて病変が指摘されステロイドパルス療法が施行された.Y+30日に当院に転院し, Y+37日に定位生検術が施行された.作業療法はY+39日に開始した.その後診断は脳幹神経膠腫,無増悪生存期間は10か月と告知され,放射線化学療法の方針となった.なお,報告にあたって患者から同意を得た.
【初期評価】右上肢の運動失調は測定障害が主で簡易上肢機能検査(Simple Test for Evaluating Hand Function:STEF)は右67点,左95点であった.ADLはなんとか自立していたが,書字や箸など右手の使用に困難さがみられた.右眼球運動障害による複視もADLを困難にしていた.うつむいて自分から話すことはほとんどなく,強い気分の落ち込みが伺われた.希望は3か月後の受験であった.
【作業療法実施計画】当初の計画として右上肢の運動失調に対する機能訓練,箸操作訓練,眼球運動訓練,書字の自主練習を考えた.加えて,自助具箸による右手での食事を確認した.心理検査は行わず,支持的な関わりに重点を置くこととした.
【経過】Y+39日からY+57日までは主に失調にアプローチした.重錘や弾性包帯,誘導介助など様々な方法を用いたが,運動失調は増悪傾向であった.食事は自助具箸でなんとか食べていたが,書字は字形の崩れが著明で読み取り困難であった.そこで,限られた予後の中で作業療法を進めていくためにAid For Decision-making in Occupational Choice (ADOC)を用いて大切な作業を聞き取った.優先度が高い項目に「公共交通機関の利用」,「食事」,「排泄」,「入浴」,「更衣」が挙げられ,お菓子作りが趣味であったことや,人との交流を大切にしているということが分かった.Y+60日には「利き手交換練習がしたい」と自ら希望する場面がみられ,左手での箸操作や書字練習の他に自主練習課題を忘れずに持参するなど意欲的な取り組みがみられた.食事は左手,自助具箸で摂取し「右手より食べやすい」とのことであった.その後運動失調がさらに増悪したため,気晴らし活動としてクッキー作りを計画した.両手動作練習を兼ねてクッキー型作りや缶の装飾を行ったところ,「渡す人をリストアップしたい」と話し,主体的に取り組むようになった.クッキー作り後,「渡したい人に渡せた」,「おいしいと言って喜んでくれた」と笑顔で報告があった.
【結果】Y+86日と87日の最終評価時,右上下肢の運動失調は初期評価時よりも増悪し,利き手として右手を使用することはできなかった.STEFは右48点,左97点であった.しかし,自分から話すことが増え,笑顔がみられるなど心理面の変化が認められた.室内は伝い歩きでなんとか移動しADLでは主に左手を使用していた.余暇時間は勉強やゲームをして過ごすようになった.Y+88日に自宅退院となった.
【考察】症例は失調症状や告知により気分の落ち込みが顕著であったが,受験に向けた重点的なアプローチを通し利き手交換という現実的なデマンドや,それに向けた意欲的な取り組みにつながったと考える.さらに,心情の変化を日々観察して支持的に接したことや,症例が大切にしている作業を取り入れたことで現実的で主体的な言動が引き出されたと考える.
【症例紹介】10歳代の女性.利き手は右であった.X月Y日から眩暈,Y+8日に複視と右上下肢の失調が出現した.前医にて右小脳半球から延髄にかけて病変が指摘されステロイドパルス療法が施行された.Y+30日に当院に転院し, Y+37日に定位生検術が施行された.作業療法はY+39日に開始した.その後診断は脳幹神経膠腫,無増悪生存期間は10か月と告知され,放射線化学療法の方針となった.なお,報告にあたって患者から同意を得た.
【初期評価】右上肢の運動失調は測定障害が主で簡易上肢機能検査(Simple Test for Evaluating Hand Function:STEF)は右67点,左95点であった.ADLはなんとか自立していたが,書字や箸など右手の使用に困難さがみられた.右眼球運動障害による複視もADLを困難にしていた.うつむいて自分から話すことはほとんどなく,強い気分の落ち込みが伺われた.希望は3か月後の受験であった.
【作業療法実施計画】当初の計画として右上肢の運動失調に対する機能訓練,箸操作訓練,眼球運動訓練,書字の自主練習を考えた.加えて,自助具箸による右手での食事を確認した.心理検査は行わず,支持的な関わりに重点を置くこととした.
【経過】Y+39日からY+57日までは主に失調にアプローチした.重錘や弾性包帯,誘導介助など様々な方法を用いたが,運動失調は増悪傾向であった.食事は自助具箸でなんとか食べていたが,書字は字形の崩れが著明で読み取り困難であった.そこで,限られた予後の中で作業療法を進めていくためにAid For Decision-making in Occupational Choice (ADOC)を用いて大切な作業を聞き取った.優先度が高い項目に「公共交通機関の利用」,「食事」,「排泄」,「入浴」,「更衣」が挙げられ,お菓子作りが趣味であったことや,人との交流を大切にしているということが分かった.Y+60日には「利き手交換練習がしたい」と自ら希望する場面がみられ,左手での箸操作や書字練習の他に自主練習課題を忘れずに持参するなど意欲的な取り組みがみられた.食事は左手,自助具箸で摂取し「右手より食べやすい」とのことであった.その後運動失調がさらに増悪したため,気晴らし活動としてクッキー作りを計画した.両手動作練習を兼ねてクッキー型作りや缶の装飾を行ったところ,「渡す人をリストアップしたい」と話し,主体的に取り組むようになった.クッキー作り後,「渡したい人に渡せた」,「おいしいと言って喜んでくれた」と笑顔で報告があった.
【結果】Y+86日と87日の最終評価時,右上下肢の運動失調は初期評価時よりも増悪し,利き手として右手を使用することはできなかった.STEFは右48点,左97点であった.しかし,自分から話すことが増え,笑顔がみられるなど心理面の変化が認められた.室内は伝い歩きでなんとか移動しADLでは主に左手を使用していた.余暇時間は勉強やゲームをして過ごすようになった.Y+88日に自宅退院となった.
【考察】症例は失調症状や告知により気分の落ち込みが顕著であったが,受験に向けた重点的なアプローチを通し利き手交換という現実的なデマンドや,それに向けた意欲的な取り組みにつながったと考える.さらに,心情の変化を日々観察して支持的に接したことや,症例が大切にしている作業を取り入れたことで現実的で主体的な言動が引き出されたと考える.