第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-8] ポスター:がん 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-8-1] 終末期の外出支援により家族・愛猫と自宅で最期を過ごせた症例

竹中 温子, 近江 孝之, 蓑輪 秋奈, 椎木 洋子 (社会医療法人 有隣会 東大阪病院リハビリテーション部)

【はじめに】今回,転移性脳腫瘍に伴う症状の悪化があったが,適切なタイミングで本人や家族の希望を確認し外出支援を行った.その結果,家族や愛猫と共に自宅で最期の時間を過ごすことができた症例について報告する.なお,発表に際し本人の同意を得ている.【症例】A氏,60歳代女性.夫と猫と同居し娘家族は近隣に在住.自宅内は車いすが使用できる環境であった.X-10年小細胞肺がん発症.脳転移を2度繰り返すが自宅で生活していた.Y-1月脳転移再発し他院へ入院.精査・リハ・抗がん剤治療目的で当院転院.X年Y月Z日より作業療法介入開始となった.認知機能はMoca-j24/30点,身体機能は右上下肢はBRS-Tで上肢Ⅴ手指Ⅴ下肢Ⅰ,左上下肢に著明な麻痺は無し.感覚は四肢深部・表在共に中等度鈍麻.基本動作は端坐位修正自立,他重度介助レベル.FIM運動項目24/91点で食事・整容動作以外のADLは全介助.Performance Status3.Palliative Prognostic Index2.5.A氏の希望は「歩いて家に帰りたい」「トイレに行けるようになりたい」であった.【経過】第Ⅰ期:まず,A氏の希望に沿ってADL訓練を行い,起居と移乗が軽介助となり日中はトイレでの排泄が可能となった.しかし病状悪化に伴いてんかん発作や鼻出血が出現.意識消失後に動揺し混乱する様子や,鼻出血の対処法に対して不安があり,どう対処して良いか何度も確認するようになった.また基本動作の介助量が増え,排泄動作は2人介助となった.第Ⅱ期:Z+90日A氏から「猫のブラッシングは私の仕事.私が居ないと寂しがる」「家族に迷惑をかけたくないから家に帰りたくない」との発言があり悩まれている様子だった.家族は介護未経験であり,症状出現時の対応に戸惑いもあり,「本人の情緒不安定さにはついていけない」との発言があった.家族は自宅退院について難色を示した.外出の希望はあり,面会に夫は毎日,娘と孫も頻繁に来られており外出への協力が得やすい環境であると判断した.主治医へ相談し飲食店への外出を計画した.お互いが安心して外出できるように症状出現時の対応について記載したパンフレットを作成.意識消失時の対応方法や,鼻出血時にどう対応するかA氏と一緒に決めた内容,自助具の取り扱い等について具体的に説明し,外出中にも確認できるようにした.介助については,排泄はA氏と相談しオムツ対応とし,家族の負担を軽減した.基本動作で最も介助量の多い移乗動作についてはオルトップ装具や弾性包帯を貸し出し介護負担軽減を図った.また実際に動作指導を行い不安の軽減を図った.結果,外食だけではなく急遽自宅に戻り猫の世話をし,友人とも会うことが出来た.帰院後,A氏は「猫がすぐに膝に乗ってきたよ」と笑顔で語った.その後,さらに状態は悪化しベッド上生活となったが,本人と家族の希望がありZ+135日目に自宅退院となった.【考察】厚生労働省の調査では,在宅療養移行の阻害因子として家族の介護負担が最も高いとされており,本症例も同じであった.家族は症状出現時の対応の未経験,介護未経験による不安から介護負担を感じるのではないかと判断した.それに対し,パニック時の対応や,無理のない介護支援の提案と指導を実際に行ったことが外出を実現させ,その後の自宅退院に繋がったのではないかと考える.状況や時期により変わる本人や家族の希望を確認し,すぐに対応する関わりができるのが,作業療法の専門性であり終末期の関わりに必要な視点ではないかと考える.