第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-8] ポスター:がん 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-8-2] 緩和ケア病棟入院患者の歩行能力を予測する因子についての検討

熊野 宏治1, 木戸 健介2, 濱田 賢一3, 西原 桜子3, 小石 恭士3 (1.パナソニック健康保険組合 松下記念病院診療技術部 リハビリテーション療法室, 2.パナソニック健康保険組合 松下記念病院リハビリテーション科, 3.パナソニック健康保険組合 松下記念病院緩和ケア内科)

【はじめに】緩和ケア病棟(Palliatve Care Unit:PCU)でのリハビリテーション(リハ)は,余命の長さに関わらずその時点で患者にとって最高のQuality Of Lifeを実現することである.その介入目的のひとつとして歩行がある.しかしPCUでの歩行に関する報告は少ない.本研究はPCUでリハを実施する患者が歩行可能であると予測する因子を検討することである.
【倫理的配慮】本研究は当院の倫理委員会の承認を得て報告している.
【対象】2022年1月~2022年12月まで当院PCUへ入院しリハビリテーションを実施した患者109名のうち,脊髄圧迫症状や脳転移により麻痺がある患者27名及び死亡前兆候が明らかな患者35名を除外した47名を対象とした.内訳は男性22名,女性25名.平均年齢, 77.1±8.9歳,がん種は消化器21名,肺16名,泌尿器3名,原発不明3名,子宮3名,乳房1名であった.
【方法】次の1)~6)についてカルテよりデータ収集を行なった.1)動作能力及び活動範囲(Johns Hopkins Highest Level of Mobility Scale:JHMSを使用)2)症状コントロール状況(STAS-J症状版を使用)3)下肢伸展挙上運動(Straight Leg Raising:SLR)保持時間4)食事量(1日3食の経口摂取割合の平均値)5)血液検査及び血液生化学検査の値6) 予後予測データ(Palliative Prognostic Score及びPalliative Prognostic Index)のデータを集計分析した.歩行可能の判断基準はJHMSの10歩以上歩行可能とした. SLR保持時間は左右測定し, SLR挙上側下肢を膝関節伸展位,足関節背屈位,股関節屈曲45°の姿勢で保持できる時間を測定した.統計解析はEZ-Rを使用しJHMSとSTAS-J,SLR保持時間,食事量, 血液検査及び血液生化学検査の値,予後予測データの項目をSpearmanの順位相関係数で関連性を抽出し,歩行を目的変数とし抽出された関連のあった項目を説明変数としたロジスティク回帰分析を実施した.ロジスティク回帰分析で抽出された因子にROC曲線を実施しカットオフ値を求めた.有意水準はP<0.05とした.
【結果】JHMSと関連のあった項目は右SLR(r=0.94),左SLR (r=0.92),疼痛(r=0.35), 呼吸困難(r=-0.35), 嘔気(r=0.38),食事量(r=0.53),クレアチニン(r=0.45) ,推算糸球体濾過量(r=-0.41))であった.ロジスティク回帰分析の結果,歩行と関連する因子は右SLR(オッズ比1.77,95%信頼区間1.070-2.940)であった.ROC曲線による歩行を予測する右SLRのカットオフ値は10歩以上で12.2秒(感度96.8% 特異度100% AUC 0.99 95%信頼区間 0.980-1.000)7.6m以上で14.0秒(感度91.2% 特異度100% AUC 0.96 95%信頼区間 0.908-1.000)であった.
【考察】SLRは主に股関節屈筋群や膝関節伸展筋群,腹筋群などの筋活動を必要とし歩行能力を評価する大まかな指標である.SLRは動作能力に関わらずベッド上で簡易的に実施可能な評価であり,SLR保持時間は定量化しやすいといった特徴があり臨床で有用な評価指標となりうる. 日本人の約70%は右下肢が利き足であり生活場面で頻回に使用することが多く本研究において抽出された可能性はある.歩行には感覚,認知機能,バランス能力など様々な因子が関与する.今回の研究ではこれらの因子が入っていないことが課題としてあげられる.