第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-8] ポスター:がん 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-8-3] 終末期作業療法の構造と意義

國武 亜由美1, 竹原 敦2, 安永 悟3, 原 頼子4 (1.公立八女総合病院リハビリテーション科, 2.群馬パース大学リハビリテーション学部, 3.久留米大学文学部心理学科, 4.久留米大学医学部看護学科)

【はじめに】
終末期作業療法は,患者とその家族の希望を最大限に実現できるように多様なニーズを持つ患者一人ひとりに個別的な援助を行い(目良 2008),最期までその人らしく生きることを主眼に置いた実践と言われている(福田ら 2015).こうした作業療法の実践構造とはいかなるものであろうか.作業療法過程における対象者が語る主観的な想いには,作業が対象者に与える影響が多様な形で含まれていると思われる.本研究の目的は,終末期作業療法過程における患者の語りから得られる想いを通して,作業療法の実践構造とその成果の意義を明らかにすることである.
【対象と方法】
対象:当院に入院し医師のOT指示がある終末期がん患者の中から意思疎通が可能で本人の同意が得られた3名を対象とした.内訳はA氏70代後半女性,肺腺癌,呼吸困難感,帰宅希望,B氏80代後半女性,直腸癌,気分障害と引きこもり,C氏50代後半男性,甲状腺乳頭癌,脳梗塞による左片麻痺,拘縮と疼痛が著明,臥床傾向であった.方法:2022年11月~12月に,対象ごとに本人が希望する手工芸を用いた作業療法を実施し,その際に対象者の非言語的情報を得るため参加観察およびフィールドノートの記載を行った.次に,作業に対する想い,心に残っていること,生きる上での支えなどに関し,インタビューガイドを用いた半構造化面接を行い対象者の同意の上ICレコーダに記録した.面接のデータから逐語録を作成し,文脈ごとにコード化,同意コードの統合,類似コードのまとめ,共通して見出される意味の命名,サブカテゴリーの作成および抽象度を高めながら複数のサブカテゴリーを集めカテゴリーの生成を行った.さらに,フィールドノートの記載を補足データとして,コードとカテゴリー,サブカテゴリーの相互関係を検討した.分析の信頼性を得るため,質的研究の経験豊かな共同研究者と繰り返しデータを解析した.なお,本研究は当院の倫理委員会の承認を得た.
【結果】
分析の結果,118のコード,11のサブカテゴリー,5つのカテゴリーが生成された.対象者は作業を通して①<作業への想いが時間と共に変化し,価値を見いだす>,作業実施の際には,②<症状からの解放>がなされ,③<作業を媒体として家族,他者とのつながりを深める>ことができ,④<作業を通して高まる自尊心>が得られ,⑤<希望が生きることを豊かにする>ことが示された.
【考察】
本研究の目的は,終末期作業療法過程における患者の語りから得られる想いを通して,作業療法の実践構造とその成果の意義を明らかにすることであった.結果として実践構造となる5つのカテゴリーが生成された.終末期の対象者が作業への価値を見いだすことができると,作業に没頭し自分が抱えている苦痛や苦悩の症状から解放された.こうした作業の経験は作業療法場面だけにとどまらず,日課の一部や習慣として作業の適応をもたらした(Kielhofner 2007).また,作業は他者の関心を引き寄せ,コミュニケーションを促進させるため(近藤 2021),対象が希望する作業を行うことにより,家族や他者との交流が促進された.人との関係性が深まると,作業を行うことの価値がより一層深められ,自尊心が高まり,希望を抱き,残された人生をより豊かに保とうとするようになったと考えられる.作業療法士は,実践構造の5つの過程を通して,自己の治療的利用(Travelbee 1971)を意識し,対象者の希望する目標を達成するために,適切な環境を調整し,これまで意味を感じなかった生活の中に意味を見出すよう関与した.こうした作業療法実践は,終末期がん患者の生きる希望の促進という成果をもたらすものとなった.