第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-8] ポスター:がん 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-8-4] 選択的頸部郭清術後の術側・非術側の肩関節外転角度差による上肢機能の比較

伊藤 慎太郎1, 大木原 徹也1, 澤田 凱志1, 下斗米 佳奈実1, 牧田 茂2 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉医科大学国際医療センター心臓リハビリテーション科)

【背景】頸部郭清術後には,副神経の損傷により僧帽筋麻痺を生じ,翼状肩甲や関節可動域制限が生じる(辻,2019).副神経を温存した選択的頸部郭清術(Selective neck dissection:以下,SND)症例においても,一時的な神経麻痺を生じると報告されている(Salerno G et al., 2002).そのためSND後のリハビリテーションの目的は,疼痛緩和や不動抑制,僧帽筋麻痺の回復を促進し,肩の運動障害を改善させることに集約される(辻,2011).頭頸部腫瘍術後,術側・非術側肩関節の外転角度差が40°以上の場合,96%に僧帽筋の機能障害を認めたとの報告がある(C.P.van Wilgen et al.,2003).もし術後早期の術側・非術側の肩関節外転角度差の有無と,退院時の上肢機能との関連が明らかとなれば,術後早期からの上肢機能の予後予測や,早期からの作業療法プログラム立案の一助となるかもしれない.そこで,本研究の目的は,術側・非術側の肩関節外転角度差の有無による,退院時上肢機能の差異を明らかにすることとした.
【対象および方法】対象は当院にてリハビリテーションを処方された片側SND後患者20例(66.2±14.4歳,男性11例,女性9例)を対象に,術後1週間以内の術側・非術側の肩関節外転角度差が40°以上の群を「あり群」,認めなかった群を「なし群」に群分けし,あり群10例,なし群10例となった.それぞれの群の,退院時の術側・非術側肩関節の自動屈曲・外転関節可動域(°),肩甲骨脊柱管距離(scapula-spine distance:以下SSD)差(術側SSD-非術側SSD mm)を評価した.退院時の上肢機能はDisabilities of the Arm, Shoulder and Hand(以下DASH)を用いて評価した.術後1週間の術側・非術側肩関節の外転差の有無と退院時の上肢機能,肩関節可動域との関連を明らかにするために,年齢,退院時の肩関節屈曲・外転の関節可動域,最終評価病日,SSD,DASHスコアにたいしてMann-Whitney U検定を行い解析した.性別についてはカイ二乗検定を行った.(当院IRB承認番号2021-224).開示すべきCOIはなし.
【結果】あり群は男性7例,女性3例,なし群は男性4例,女性6例であった.尺度の中央値(四分位偏差)(あり郡/なし郡)は,年齢(歳):60.5(9.5)/ 73.5(4.9),最終評価日:7.0(5.1)/9.0(9.4),術側肩関節屈曲:117.5(8.8)/132.5(11.3),術側肩関節外転:87.5(20.0)/135(15.6),非術側肩関節屈曲:150.0(12.5)/147.5(13.8),非術側肩関節外転:150.0(16.3)/150(18.1),DASHスコア:22.4(9.7)/5.4(7.8),SSD差:3.8(6.4)/0.5(6.3)であった.年齢,性別,最終評価病日,非術側の肩関節可動域,SSD差に有意差を認めなかった.術側の肩関節屈曲角度(p<0.01),肩関節外転角度(p<0.05),退院時のDASHスコア(p<0.05)に有意差を認めた.
【考察】本研究において,術後早期に肩関節外転角度差がある群はない群と比較し,退院時の肩関節可動域制限,上肢機能障害が残存している結果であった.このことから,術後早期から術側に加え非術側の肩関節の可動域を評価することで,その後の上肢機能障害を予測できる可能性がある.それにより,術後の術側・非術側の肩関節外転角度差に合わせた,早期からの作業療法プログラム立案に寄与する可能性が示唆された.症例数の増加,術側肩関節外転角度差の経時的変化の評価,筋電図検査等による僧帽筋麻痺の客観的評価は今後の課題である.