第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-9] ポスター:がん 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-9-3] 上肢リンパ浮腫に対するリンパ管静脈吻合術前後におけるリハビリテーション治療の効果

寺村 健三1, 西郊 靖子2, 小川 奈々1, 坂本 あきな1, 久米川 真治3 (1.和歌山県立医科大学附属病院リハビリテーション部, 2.和歌山県立医科大学みらい医療推進センターげんき開発研究所, 3.和歌山県立医科大学形成外科学講座)

【はじめに】リンパ浮腫に患肢の圧迫,圧迫下の運動,ドレナージ,スキンケア,日常生活指導による複合的治療が基本である.蜂窩織炎を繰り返す難治例にはリンパ管静脈吻合術(LVA)が行われる.だが,術後管理に関しては施設ごとで統一されていない.近年,リンパ浮腫の病期分類(国際リンパ学会)Ⅱ期後期以降は,脂肪組織変化と組織繊維化がリンパ浮腫の不可逆に関与していることが明らかになり,脂肪組織の減量も目指す必要がある.当院作業療法は,LVA後に余剰リンパ液の排液と脂肪組織減量を目的に患肢の圧迫下でリンパ浮腫体操,四肢体幹の筋力増強訓練・有酸素運動と生活指導を行っている.脂肪組織の減量については効果の判定が難しく各施設で苦慮されている.そのため三次元体積測定装置を使用し体幹脂肪の減量を効果判定するために体幹の体積測定を試みた.
【目的】LVA後のリハビリテーションの効果を検証するとともに,三次元体積装置による体幹体積の評価の有効性を検討する.
【対象】2019年1月~2022年8月までにLVA施行された36例のうち,作業療法,理学療法を行った上肢リンパ浮腫6例を対象とした.全て女性で平均年齢68.6歳,右乳がん2例,左乳がん3例,両側1例である.リンパ浮腫が発症するまで平均術後3.2年(術直後~術後13年)であった.蜂窩織炎の発症は平均1.1回(0回4例,3回1例,4回1例)であった.既往歴は,整形疾患2例,腎炎・腎がん2例であった.日常生活は自立されていた.
【方法】入院日(術前)に評価し,入院2日目LVA施行され,入院3日目作業療法を開始し,退院前日(術後)に評価を行った.評価は夕食前に行った.評価項目は,三次元体積測定装置による体幹の体積測定,周径測定,In-Bodyによる体重・BMI・脂肪量・筋肉量・細胞外水分比率,運動内容と施行日数をカルテより後方視的に調査した.体幹の三次元体積測定は,肌に密着する袖の無い服を着用し,両上肢は体幹に重ならないようにした.体幹体積は上端を肩峰とし,下端を腸骨陵として求めた.上肢周径は4ヵ所の集計を合計し,術前・術後の絶対値の差を求めた.統計はPearsonの相関係数を使用した.研究に先立って被験者に研究の目的と方法を十分に説明し同意を得た.
【結果】運動嫌いでリンパ体操のみが1例(体操例),5例(運動例)は8~12種目の運動を短時間の休憩を入れながら反復して行い訓練室滞在時間が長かった.施行日数は運動例平均7.2日であった.体幹体積は,体操例は146.8㎤増加したが,運動例は平均977.7㎤減少し,最大2010.7㎤減少した.上肢周径は,体操例が0.5㎝低下し,運動例が平均4.5㎝低下した.体重は全体で平均1.7㎏減少し,BMIは平均0.7減少した.脂肪量は5例増加し,筋肉量は2例増加した.細胞外水分比率は,術前は全例が基準値より高値であったが,術後は全例が低下していた.体幹体積と,上肢周径(p<0.02),施行日数(p<0.04),運動種類(p<0.02)と相関した.体重は年齢(p<0.03)に相関した.生活指導は患者の生活や理解度に合わせて,生活の注意点,弾性包帯の巻き方,上肢挙上位などを行った.
【考察】 体操例は体幹体積が増加し上肢周径の低下も小さかったが,運動例は体幹体積の低下や上肢周径の低下が大きく,短期間の治療でもリンパ浮腫の軽減が可能であった.積極的な運動によって骨格筋の収縮と弛緩による筋ポンプ作用の増強でリンパ灌流が向上し,加えて全身運動による運動後過剰酸素消費量の増大も貢献した考えられる.また,高強度運動でもリンパ浮腫の増悪も無かった.そして,上肢周径は体幹体積と相関を認めており,体幹体積の評価は上肢リンパ浮腫の改善を示すことが示唆された.