第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

内科疾患

[PG-1] ポスター:内科疾患 1

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PG-1-1] 急性期酸素化障害を呈した患者の退院時MMSE⁻Jの成績に及ぼす因子の検討

町田 直之, 岡田 康佑, 馬場 優季, 岡林 奈津未, 小野田 翔太 (医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院診療技術部リハビリテーション技術科)

【はじめに】平成30年診療報酬改定より早期離床リハビリテーション加算が算定可能となり,構成要員に作業療法士も含まれた.Schweickertらより作業療法士を含めたチームアプローチで挿管期間,せん妄期間の短縮を報告されている.しかし超急性期における認知機能を評価結果とした検証は散見されるが,生理学的重症度による影響を考慮した報告は少ない.集中治療室より退室した症例には記銘力・注意力の低下により再発予防を含めた患者指導に困難を呈す場面を経験する.岡島らにて慢性呼吸不全患者における前頭葉機能,言語性記憶の関係性に対し報告されているが,急性期酸素化障害による影響は渉猟する限り見受けない.本研究では認知機能と急性期酸素化障害の関係性,生理学的重症度の影響度を明らかにすることを目的とした.
【対象と方法】対象は2021年6月より2022年12月末まで当院ICU,HCUに入院された呼吸器内科,総合診療科の患者とし診療録を後方視的に調査した.死亡退院,認知症・脳血管疾患の既往がある者,病前ADLに介助を要した患者を除外した.統計学的解析として調査項目と退院前のMMSE-Jに対しSpearmanの順位相関係数にて解析した.説明変数の影響度を調査するために退院前MMSE-Jの点数を従属変数とし年齢,APACHEⅡ,P/F比,せん妄日数,酸素療法日数,在院日数,ICU・HCU在室日数,入院時の血液検査よりHb,CRP,PaCO2,Lacを説明変数としステップワイズ重回帰分析より予測回帰式を求めた.統計処理はR(version4.2.1)を用い,統計学的有意水準は5%とした.本研究は当院倫理審査委員会(承認番号1092)より承認を得て行なわれ,オプトアウトにより対象者へ参加の拒否の機会を保障するため研究概要,利用する情報の種類と対象期間を本院ホームページ上に公開し研究を開始した.
【結果】除外基準に該当した112例を除き,70名を解析対象とした.記述統計の結果MMSE-J24.7±4.7,年齢75.5±11,APACHEⅡ16.6±5.7,P/F比286.7±144.3,せん妄日数0.85±1.8,酸素療法日数35.5±20.3,在院日数38.6±40,ICU・HCU在室日数7.92±5.8,Hb12.5±2.5,CRP9.7±11.1,PaCO2 39.5±16.5,Lac2.37±1.8であった.相関分析よりAPACHEⅡ,P/F比,酸素療法の日数,年齢に有意差を認めた(P<0.05).APACHEⅡでは中等度の負の相関(r=-0.31),P/F比で強い正の相関(r=0.5),酸素療法の日数で中等度の負の相関(r=-0.24),年齢にて強い負の相関(r=-0.4)を認めた.重回帰分析よりAPACHEⅡ,P/F比,年齢にて退院時のMMSE-Jと関係があることが示された(標準回帰係数:APACHEⅡ-0.229,P/F比0.302,年齢-0.332,決定係数:0.36).VIFはいずれの項目で10未満であり多重共線性に問題は無かった.
【考察】退院時のMMSE-Jに対しP/F比,APACHEⅡ,年齢が重回帰式に抽出された.酸素運搬能に関連するHb,Lacにおいて重回帰式より影響は示唆されなかった.今回の集団特徴としてHbの値が基準値より逸脱していないことが要因として考察された,Lacは基準値を上回る結果となったが,死亡転帰の予測指標として用いられ死亡退院を除外基準とした本研究では.影響が少なかったと考察された.これらの変数においては今後も検証が必要である.酸素化障害の重症度が抽出された点は,HulyaらよりCOPD患者にSPECTを施行し低酸素を呈す群に前頭葉,頭頂葉の血流量低下を有意に認めたとの報告があり酸素化と脳機能に関連はあると考察する.急性期酸素化障害を呈した患者に対し認知,高次脳機能を評価することで個人に合わせた生活指導や機能訓練を行う必要性は追加検証が必要であり,急性期より作業療法介入することの職域獲得に寄与できると考えられた.