[PG-1-4] 大学病院の集中治療室長期入室患者に対する作業療法介入の実態に関する調査
【背景・目的】
集中治療室(Intensive Care Unit; 以下,ICU)への長期入室は死亡率の増加や医療費の増大に関わることが報告されている(Moitra et al, 2016).2018年度の診療報酬改定において「早期離床・リハビリテーション加算」が認められ,ICUでの多職種による早期リハビリテーション(以下,リハ)が推進されている.当該加算における算定要項の職種要件には,作業療法士も該当しており,集中治療領域での作業療法士の活躍が期待されている.しかしながら,ICUにおける作業療法(以下,OT)の実践に関する研究報告は少なく(駒場ら,2022),ICU入室患者に対するOTの実態は十分に明らかにされていない.そこで今回は,大学病院のICUにおける長期入室患者に対するOTの実態を明らかにすることを目的に調査を行った.
【方法】
対象は2019年1月から2022年7月までの間に当院ICU(外科・内科)に7日以上滞在した患者連続328例の内,ICU滞在中に死亡した58例とリハを実施しなかった4名を除外した266例とした.本研究では,先行研究(Moitra et al, 2016.Naïm et al,2022.)を参考に7日以上の滞在を長期入室と定義した.当院の電子診療記録より次の項目を調査した.患者属性として,年齢,性別,主病名,ICU滞在日数,在院日数,入室形態(緊急手術の有無),ICU入室時の患者重症度(APACHE-Ⅱスコア),ICU入室時の多臓器不全の程度(SOFAスコア),ICUせん妄の評価指標(Intensive Care Delirium Screening Checklist:ICDSC)を調査した.先行研究(Bergeron et al, 2001)に基づき,ICDSC≧4をせん妄あり,ICDSC<4をせん妄なしと定義した.また,OT介入の実態として,各患者に介入したリハ職種の内訳,実施単位数,介入内容を調査した.統計解析は調査期間内の全対象者に占めるOT実施者の割合と1回あたりの平均実施単位数を算出した後,OTを実施した患者群と非OT実施患者群における患者属性の比較を行った.解析にはSPSS ver.28を使用し,危険率0.05 未満を統計学的に有意とした.なお,本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
対象者266例全例に対して理学療法士が介入しており,作業療法士は全体の66.9%にあたる179例に介入していた.患者1人に対する1回あたりのOT実施単位数は平均1.33±0.32であった.主なOT内容は離床,機能的作業療法,ADL練習,精神・認知機能への関わり,作業活動であった.OT実施群(n=179)と非OT実施群(n=87)における患者属性の比較では,OT実施群において有意に心血管疾患と神経疾患の占める割合(P<0.001)および緊急手術症例の占める割合が高く(P<0.001),初回のICDSC得点(P=0.002)および初回にICUせん妄を有する患者の割合(P=0.043)が有意に高い傾向を認めた.
【考察】
当院ICUに長期入室した患者の約7割に対してOTが介入しており,OTの実施内容は本邦の救命救急センターの実態を調査した先行研究(藤本ら,2019)と類似した内容であった.OT実施群とOT非実施群での比較では,OT実施群において初回にICUせん妄を有する割合が高いことについて,近年ICUせん妄に対するOTの効果(Alvarez et al,2017)も報告されたことから,ICUせん妄に対するOT介入への他職種の関心の高さも反映されたことが要因と考えられる.研究の限界として,本調査は大学病院での単施設における検討であり,結果の一般化が困難なことが挙げられる.今後は他施設を含めた詳細な実態調査を行い,集中治療領域でのOTの発展に向けたさらなる研究を行っていく必要がある.
集中治療室(Intensive Care Unit; 以下,ICU)への長期入室は死亡率の増加や医療費の増大に関わることが報告されている(Moitra et al, 2016).2018年度の診療報酬改定において「早期離床・リハビリテーション加算」が認められ,ICUでの多職種による早期リハビリテーション(以下,リハ)が推進されている.当該加算における算定要項の職種要件には,作業療法士も該当しており,集中治療領域での作業療法士の活躍が期待されている.しかしながら,ICUにおける作業療法(以下,OT)の実践に関する研究報告は少なく(駒場ら,2022),ICU入室患者に対するOTの実態は十分に明らかにされていない.そこで今回は,大学病院のICUにおける長期入室患者に対するOTの実態を明らかにすることを目的に調査を行った.
【方法】
対象は2019年1月から2022年7月までの間に当院ICU(外科・内科)に7日以上滞在した患者連続328例の内,ICU滞在中に死亡した58例とリハを実施しなかった4名を除外した266例とした.本研究では,先行研究(Moitra et al, 2016.Naïm et al,2022.)を参考に7日以上の滞在を長期入室と定義した.当院の電子診療記録より次の項目を調査した.患者属性として,年齢,性別,主病名,ICU滞在日数,在院日数,入室形態(緊急手術の有無),ICU入室時の患者重症度(APACHE-Ⅱスコア),ICU入室時の多臓器不全の程度(SOFAスコア),ICUせん妄の評価指標(Intensive Care Delirium Screening Checklist:ICDSC)を調査した.先行研究(Bergeron et al, 2001)に基づき,ICDSC≧4をせん妄あり,ICDSC<4をせん妄なしと定義した.また,OT介入の実態として,各患者に介入したリハ職種の内訳,実施単位数,介入内容を調査した.統計解析は調査期間内の全対象者に占めるOT実施者の割合と1回あたりの平均実施単位数を算出した後,OTを実施した患者群と非OT実施患者群における患者属性の比較を行った.解析にはSPSS ver.28を使用し,危険率0.05 未満を統計学的に有意とした.なお,本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
対象者266例全例に対して理学療法士が介入しており,作業療法士は全体の66.9%にあたる179例に介入していた.患者1人に対する1回あたりのOT実施単位数は平均1.33±0.32であった.主なOT内容は離床,機能的作業療法,ADL練習,精神・認知機能への関わり,作業活動であった.OT実施群(n=179)と非OT実施群(n=87)における患者属性の比較では,OT実施群において有意に心血管疾患と神経疾患の占める割合(P<0.001)および緊急手術症例の占める割合が高く(P<0.001),初回のICDSC得点(P=0.002)および初回にICUせん妄を有する患者の割合(P=0.043)が有意に高い傾向を認めた.
【考察】
当院ICUに長期入室した患者の約7割に対してOTが介入しており,OTの実施内容は本邦の救命救急センターの実態を調査した先行研究(藤本ら,2019)と類似した内容であった.OT実施群とOT非実施群での比較では,OT実施群において初回にICUせん妄を有する割合が高いことについて,近年ICUせん妄に対するOTの効果(Alvarez et al,2017)も報告されたことから,ICUせん妄に対するOT介入への他職種の関心の高さも反映されたことが要因と考えられる.研究の限界として,本調査は大学病院での単施設における検討であり,結果の一般化が困難なことが挙げられる.今後は他施設を含めた詳細な実態調査を行い,集中治療領域でのOTの発展に向けたさらなる研究を行っていく必要がある.