第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

内科疾患

[PG-2] ポスター:内科疾患 2

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PG-2-2] 在宅生活を継続するために社会的決定要因(SDH)の視点で利用者を捉えた一事例

村口 詞紀 (勤医協札幌ひがし訪問看護ステーション)

【はじめに】
今回,水分や塩分などの食事制限がある中で,短期間での入退院を繰り返してしまっている利用者に対して,どのような退院調整を行えば,在宅生活が継続できるかを多職種で検討した.社会的決定要因(Social determinants of health以下SDH)の視点で本人を捉えた経過や病院と在宅が連携して退院調整を行った内容をまとめたため報告する.今回の発表にあたり対象者に書面を用いて十分な説明を行い,倫理的配慮に基づき同意を得た.
【症例紹介】
60歳代女性.X年11月に自宅にて呼吸苦あり救急搬送され,心不全の診断で入院となる.自宅での食生活や体重管理が必要となったため訪問看護導入にて自宅退院となった.既往として慢性腎不全,Ⅱ型糖尿病,PPM挿入(X-2年),中枢性睡眠時無呼吸症候群,肥満症,うつ病,パニック障害など複数の病気を抱えている. 自宅は賃貸マンションで夫と2人の息子と同居されている.夫は無職であり,家事,介護全般を担っている.同居の息子はそれぞれIga腎症と統合失調症の診断があり無職であるため,現在は生活保護を受給し,家族4人で生活している.移動は車椅子全介助レベル.食事はセッティング後自立,排泄は尿バルーン留置しており,排便時は夫介助のもとトイレで排泄される.入浴も夫介助のもとシャワー浴をされている.利用しているサービスは訪問診療月2回,訪問リハビリ週2回,訪問看護週1回であり,食事管理や内服管理は夫が中心となって行っていた.作業療法評価では,HDS-R30点,MMSE30点,FAB17点,コース立方体テストでのIQ52であり,軽度知的障害に該当する領域であった.本人の希望は病院に長くいたくない,家で過ごせることが一番の希望と話されており,夫もその想いにできる限り援助したいとの希望が聞かれた.
【経過】
退院後, X年3月に体重が120㎏まで増加し入院.給食による食事制限や利尿剤の使用により,体重が減少し,退院するも再び体重が増加したため在宅生活期間6日で再入院となる.その後再び退院となるが在宅生活期間16日間で再々入院するなど短期間での入退院を繰り返した.退院の度に栄養士からの食事指導や医師からの体重増加への忠告を受けていたものの結果として在宅生活での食事制限が守れないことで浮腫も増加し,体重が増加している状況であったため,症例と症例家族をSDHの視点で捉えた.症例のこれまでの生い立ちや人生におけるターニングポイントが見えてきた.今回の症例に対して,再入院しないためにどのようなサービスを新たに導入することが重要であるかを病院スタッフ,在宅スタッフの多職種で検討.退院前には病院の医師,看護師,栄養士,ソーシャルワーカー,リハビリセラピスト,往診スタッフ,在宅スタッフで退院時カンファレンスを実施し,退院調整を行った.新たなサービスとして,デイサービスを週3回,訪問栄養士の利用,訪問薬剤師の利用,金銭的な事情から導入できていなかった配食サービスの利用を開始した結果,半年間の自宅生活を継続できた.
【考察】
経済的困窮は健康に影響を及ぼしうる社会的な要因の一部として知られている.今回の症例を通して,必要なサービスを導入できないことで短期間での入退院が発生しており,健康格差が生じていると感じた.本ケースにおいて一番の課題は食事制限であり,夫と本人が食事制限に苦慮したことで再入院を繰り返したと考えられたため,訪問栄養士や訪問薬剤師などの利用を追加できたことで半年間の在宅生活が送れたと考える.金銭的事情によって十分なサービスを導入できない部分をどうカバーするか,多職種で病院と在宅が連携できたことで現在も在宅での生活が継続できた.