第57回日本作業療法学会

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ポスター

内科疾患

[PG-3] ポスター:内科疾患 3

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PG-3-2] 急性期病院における認知症高齢内部障害患者の入院時ADLの特徴

早坂 早紀, 並木 幹子, 川端下 実花 (独立行政法人労働者健康安全機構 関東労災病院中央リハビリテーション部)

【序論】
 廃用症候群・呼吸器・心大血管リハビリテーション算定患者(以下,内部障害患者)は多様な症状を呈することに加え,リスク管理や多職種との連携等,配慮すべき事項が多い.当院は急性期病院であり,作業療法(以下,OT)部門は内部障害患者に対し,年間約800件の依頼があり,効率化や効果的な介入を行うことが喫緊の課題である.我々は第55回OT学会発表時に内部障害患者の日常生活動作(以下,ADL)と認知機能をN式老年者日常生活動作能力評価尺度(以下,N-ADL)とN式老年者用精神状態尺度を用いて検討し,入院前ADLの確認が重要であることを明らかにした.また,臨床上内部障害患者の中でも特に認知症高齢者はADLの改善に難渋する.今回,認知症高齢内部障害患者を対象に「自宅退院群」と「自宅外退院群」の二群に分けて,自宅退院の可否に関わる要因に着目し,二群間の入院時ADLの特徴を明らかにした.これによりOTの目標や介入方針を設定し,効率的かつ効果的な介入を行う一助としたい.
【研究目的】入院前居住地が自宅である認知症高齢内部障害患者を「自宅退院群」と「自宅外退院群」の二群に分け,入院時ADLの特徴を明らかにすることで介入方針の一助とする.
【方法】
 対象は2022年8月〜12月に自宅から入院した既往に認知症を有する内部障害患者とした.転帰先居住地が自宅である患者を「自宅退院群」,それ以外の転帰先である患者を「自宅外退院群」とした.分析項目は年齢,性別,入院からOT開始の期間,認知症の種類,要介護度,算定分類(廃用・呼吸器・心大血管),N-ADLの下位項目の歩行・起坐,生活圏,着脱衣・入浴,摂食,排泄とした.分析方法は年齢,入院からOT開始の期間は対応のないt検定を,性別,認知症の種類,要介護度,算定分類(廃用・呼吸器・心大血管)はカイ二乗検定あるいは正確率検定を,N-ADLの下位項目はMann-WhitneyのU検定を用いた.分析には統計ソフトウェアR Version 4.2.2を使用し,有意水準は5%未満とした.尚,リハビリテーションの開始にあたり全ての患者に同意を得ている.
【結果】分析対象は既往に認知症を有する内部障害患者101名のうち,自宅から入院した55名とした.そのうち自宅退院群は24名(85.1±5.7歳,男性50%),自宅外退院群は25名(84.0±6.9歳,男性56%),死亡は6名であった.自宅退院群と自宅外退院群の二群間において,年齢,性別,入院からOT開始の期間,認知症の種類,要介護度,算定分類に有意差はなかった.有意差はN-ADLの下位項目の歩行・起坐(以下,自宅退院群,中央値/自宅外退院群,中央値)3点/1点(p=0.041),着脱衣・入浴 5点/1点(p=0.010),摂食 7点/5点(p=0.041),排泄 7点/3点(p=0.005)の4項目で認められた.
【考察】当院の認知症高齢内部障害患者の自宅退院群と自宅外退院群の入院時ADLは,歩行・起坐,着脱衣・入浴,摂食,排泄に有意差があり,特徴であることが分かった.一方,有意差があると想定していた要介護度や算定分類等の属性の項目については有意差が認められない結果となった.したがって,今回の分析結果からは入院時において歩行・起坐,着脱衣・入浴,摂食,排泄のADLの4項目が自宅退院の可否に影響を与えることが示唆された.そのため,N-ADLの評点が低い項目に対して注力してOT介入を行うことが重要であり,効率的かつ効果的な介入と考えられる.今回の分析結果をもとに,今後は対象者数を増やしN-ADLの下位項目ごとの重要度や関連性に明確に言及できるよう研究を重ね,さらにADL評価にBartel Index等を使用した場合や認知症の重症度,同居家族の有無等の項目を含めた研究へと発展させたい.