第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-1] ポスター:精神障害 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-1-3] 作業機能障害に焦点を当てた面接とIllness Management and Recoveryの実践が奏功した回避性パーソナリティ障害をもつ一事例

中村 麻幸1, 川口 敬之2, 小林 奈々1, 勝山 基史1 (1.医療法人新光会 生田病院リハビリテーション科 作業療法室, 2.国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)

【はじめに】パーソナリティ障害(PD)をもつクライエントのリカバリー支援の方略として,Illness Management and Recovery (IMR)の有効性が期待されている.IMRは,人生の目標に向けて精神症状を自己管理するための情報と技術を身に付け,リカバリーを後押しするプログラムである(Mueser KT et al, 2002).他方,PDにおけるリカバリーは,個人と社会的な経験の両方を反映した複雑なプロセスであり(Shepherd A et al, 2016),IMR実践例が少ないため,効果的な導入方法は不明である.今回,治療への参加に消極的な回避性PDをもつ事例に対して作業機能障害に焦点を当てた面接およびIMRを行ったところ,退院に前向きな言動がみられるようになったため報告する.なお,症例に対して本報告の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
【事例紹介】回避性PDをもつ50代男性.両親と3人暮らし.高校卒業後に就職するも約3年で退職し,30年程引きこもって生活していた.X年に不安や抑うつ状態を呈し「家族に迷惑をかけてしまうので別に生活したい」と入院を希望し,任意入院.3ヶ月が経過するも病状の改善は見られず開放病棟へ転棟し,作業療法(OT)開始.自己否定的で拒否的であったものの,個別および集団OTに参加していた.
【OT評価】作業機能障害の種類と評価(CAOD)を用いた面接を実施したところ,41/112であった.退院について「自分は退院できるのか」と自信のない発言が聞かれた一方で,IMR参加の提案には迷いながらも受け入れた.IMR開始時にリカバリープロセスの評価尺度Recovery Assessment Scale (RAS)を実施したところ,71/120であった.その後の評価は,IMR終了時にRASを実施し,事後評価としてIMR終了4ヶ月後にRASおよびCAODを実施することとした.
【IMR】1クールは7ヶ月(月2~3回,1回30分~60分)とし,作業療法士1名と病棟看護師2名,参加者4名の計7名で構成された.IMRのテキストより<リカバリーについて>,<ストレスに対処する>の2テーマを実施した.
【経過】<リカバリーについて>の初回時に,「初めてこんなことを考えた」と事例自身の希望やリカバリーを中心に進めていくことに驚く様子がみられた.リカバリー目標を『退院に向けて薬の自己管理を始める,OTの漫画を全部読む』と定め,それに対する標的行動を<主治医に伝える前に自分の気持ちを準備する,OTの日数を増やす>とした.<ストレスに対処する>では,以前の活気のなかった生活を振り返り,「前向きになりたい」と語った.
【結果】初回およびIMR終了時,事後評価におけるRASは71→67→77点と変化し,初回および事後評価におけるCAODは41→34となった.次のリカバリー目標について「(1クール目の)目標は達成したから,次はグループホームに退院するしかないかな」と笑顔で語った.
【考察】結果より,事例のリカバリープロセスは向上し,作業機能障害が改善した.IMR終了時にみられたRASの低下は,長期に引きこもり,自分の人生をどうしたいかと考える経験がなく,戸惑いが生じたことによるものと考える.作業機能障害に焦点をあてた面接は協働関係の構築に寄与し,IMRへの参加によって,他者と支持的に語り合いながら目標に向けた行動に移すことにつながったと考えられた.本事例における支援過程はPDをもつクライエントのリカバリーの支援方略を検討するにあたり,基礎情報となり得る.