第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-10] ポスター:精神障害 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-10-1] 精神科作業療法プログラムにて実施したボッチャの特徴

野本 義則, 生方 剛 (東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

【はじめに】精神障害者スポーツが当事者のQOLを向上させ,精神障害・精神障害者への偏見・誤解を除去する啓発効果があることが指摘されている(大西守,2020).しかし,精神障害者を対象とした競技スポーツは,身体障害者,知的障害者の2障害に比べ遅れているとの指摘もある(鎗田英樹,2016).一方,パラリンピックが東京にて開催されたことを背景に,その競技種目であるボッチャが,障害の有無にかかわらず楽しむことが出来るユニバーサルスポーツとして注目を集めている.シンプルなルールで誰でも楽しくできるといった報告もある(奥田邦晴,2018).【目的】精神障害者スポーツ種目として, ボッチャの適正と実施上の留意点などを明らかにし,精神障害者スポーツの発展,そして精神障害者のQOL向上,偏見・誤解の除去に貢献したいと考えた.しかし,精神障害者とボッチャに関する先行研究や実践報告は見当たらず,さらに精神障害の特性から「スポーツ実施に関して慎重にすべき」(田引俊和,2016)という見解もあった.そこで本研究では,日ごろからスポーツ活動をプログラムとして用いている精神科病院に勤務する作業療法士に,作業療法プログラムとしてボッチャを実施してもらい,その実施所感の分析から精神障害者スポーツとしてのボッチャの適否や実施上の課題に関する示唆を得ることを目指した.今回は,その実施所感の分析から得た,精神科作業療法プログラムにて実施したボッチャの特徴について報告する.なお,本研究の予備的研究として,当該病院の作業療法士自身にボッチャを体験してもらい,その体験の所感を分析して,精神科作業療法プログラムとしての実施上の留意点として,①正式なルールにとらわれない,②安全への配慮に過剰になりすぎない,③体験の機会を作る,これらの3つを得ている.【方法】研究デザインは,フォーカスグループインタビュー(以下,FGI)を用いた質的研究である.FGIは「関係者がどのような意見を持っているか明らかにする」「新しい考え方や概念を創造する」といった研究テーマに有効な手段である(Sharon Vaughn,1999).研究協力を得た2か所の精神科病院の作業療法プログラムにてボッチャを週に1,2回程度,6か月間実施した.その後,「ボッチャの実施所感および精神障害者スポーツとしての適否」を主題とする,FGIを実施し,その内容を「グループインタビューの分析法」(安梅,2010)に従い分析した.また分析に際して,質的研究支援ソフトであるNVivo12 Proを使用した.本研究は倫理審査にて承認を受けており,当該病院および研究参加者の同意を得て実施している.【結果】ボッチャの特徴について,FGIの逐語録から「重要な内容」,「意味深い内容」とコーディングされた数は143個であった.重要カテゴリーとして「対象者への導入のしやすさ」「好評を博す」「豊かなコミュニケーションの機会」の3項目を得た.「対象者への導入のしやすさ」は「実施が容易」「幅広い対象」「汎用性の高さ」の3項目,「好評を博す」は「楽しみの場」「満足感ある活動」「程よい運動の機会」の3項目,「豊かなコミュニケーションの機会」は「情動の喚起」「一体感の醸成」の2項目のサブカテゴリーに分類された.【考察】精神科作業療法プログラムとしてのボッチャの特徴を1)用いやすく様々な対象者と実践できると導入しやすい活動,2)楽しく満足度が高い,患者から好評を博す活動,3)参加者,見学者ともに一体に盛り上がる,コミュニケーションの多い活動,と捉えた.今後は,実施上の課題や留意点なども捉えて,さらなる実践と評価を行い,精神障害者スポーツ種目としてボッチャの適正を探究していく.