第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-10] ポスター:精神障害 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-10-2] 精神障害者のリカバリーに及ぼす施設環境に関する事例研究

大谷 将之1, 酒井 ひとみ2 (1.障がい者支援センター「てらだ」, 2.エポケーダイアローグ研究所)

【はじめに】
リカバリーは世界中のメンタルヘルスにおける重要な側面とされている(Schrankら,2007). リカバリーとは,精神障害者が人生の新しい意味や目的を見出し,充実した人生を生きていくためのプロセスである(Deegan,1988).また,アパート等の住居はクリニカルおよびパーソナルリカバリーにおける重要な要素であることが指摘されている(Choyら,2016).しかし,わが国における施設環境のどのような要素が,リカバリーに影響を及ぼすのか報告は見られない.本研究では,施設に入所中の精神障害者において,環境からリカバリーにどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的とする.
【方法】
研究参加者は,関心相関的サンプリングで選定し,当施設の入所者で同意を得られた者1名とした.基本情報として,70代男性,診断名は統合失調症,精神症状は落ち着いている.インタビューは写真誘出的方法論(Clark,2004)を用い,デジタルカメラを渡し,「満足した生活を送ることや自分らしくあり続けるために必要な環境(人,物など)」にまつわる写真を 10 枚程度撮影してもらい,その写真をもとにインタビューを実施した.その際,参加者の許可を得てICレコーダーで録音し,逐語録を作成した.データの分析はSteps for Coding and Theorization(以下:SCAT)を用いた.分析されたデータはメンバーチェッキングを実施した.本研究は関西福祉科学大学研究倫理審査委員会(承認番号19-37)の承認を得て実施した.また,本報告に際して研究参加者と所属施設の同意を得た.
【結果】
研究参加者は施設環境の写真を7枚撮影した.SCATにて得られたストーリーラインを以下に述べる.写真の場所を〈〉,分析で得られたテーマ・構成概念を【】で示す.〈自室〉施設の部屋は,【個性のない部屋】から,【興味や関心に基づくデザイン】をすることで【生活環境にアイデンティティを投影】し,【自分らしさの表現】をしていく中で自分らしいという【認識や生き方の変化】となり,自室が【親しみのある空間】となる.そのためには【対等な理解者の存在】が必要であり,具体的なニーズを表現するために【日常的な対話】を行う.〈浴室〉お風呂は【リラックスできる空間】であり,その条件として【プライバシーの確保】や【衛生的な環境】が整っていること,【落ち着いた雰囲気】が重要である.個人の【生活の中におけるこだわりの反映】ができることが必要である.〈共有スペース〉【圧迫感のない開放的な空間】であり,【交流につながるきっかけ】が必要である.個人の【気分の状況に合わせた利用】ができ,【他者と行う作業を生み出す場】となることが必要である.〈玄関〉【開放的な出入り口】であり,【閉ざされていない感覚】を生み出していた.【玄関は住人を表す顔】であり,【暮しやすさの象徴】でもある.〈食堂〉【食事を楽しめる環境】が重要で,【美味しい食事】を準備してもらえるという【適切な依存】が必要である.〈近くの周遊道〉【利便性の良い距離】のところに【自然豊な環境】で【日常的に運動できる場所】があることが重要である.様々な人と同じ場所を利用する中で【他者へ自身を投影】していたり,【近隣住民としての感覚】を養っていた.
【考察】
施設生活において,自身の価値やこだわりを反映できる環境があること,他者とつながることや地域住民の1人であるという感覚が育まれることが重要であった.地域で暮らす中で必要とされる様々な作業ができること,またそれをできるような環境がリカバリーに必要であると考えられる.