第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-10] ポスター:精神障害 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-10-5] 作業療法士の産業精神保健一次予防実践者の属性に関する検討

照井 林陽1, 會田 玉美2 (1.専門学校 社会医学技術学院 作業療法学科, 2.目白大学大学院 リハビリテーション学研究科)

【序論】
 我が国では,2015年以降のストレスチェック制度の義務化など,労働者のメンタルヘルス対策と法令整備は進んできたが,精神障害による過労死等の労災補償は増加傾向にあるなど,産業精神保健では多くの課題が継続している.仕事は人間の作業の重要な一領域であり,産業精神保健領域は作業療法士の役割を発揮できる領域と考えられるが,作業療法士の参画は緒に就いたばかりである.
【目的】
 一次予防実践者の属性を調査し,属性の特徴から作業療法士の産業精神保健領域への参入条件を考察する.
【方法】
 一次予防実践経験がある作業療法士数の少なさが予想されたため,スノーボールサンプリングにて対象者を選定した.対象者へアプローチを直接行った経験がある者を直接的実践者(以下,A群)とし,対象者の上司,所属企業などへの間接的なアプローチを行った経験がある者を間接的実践者(以下,B群)と定義した.A群とB群の年齢,性別,所属先,経験年数,保有関連資格を整理し,検討した.本調査はA大学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号20医研‐007).
【結果】
 A群8名,B群5名のうち,年齢,性別,所属先はA群で20代が1名,30代が2名,40代が5名,B群は20代と50代が各1名,30代が3名,A群は男性が6名,女性が2名,B群は男性が4名,女性が1名,A群は教育機関,就労支援機関,個人事業主が各2名,医療機関と企業が各1名, B群は医療機関が3名,就労支援機関が2名であった.経験年数は,A群で5年以上10年未満が1名,10年以上15年未満が2名,15年以上20年未満が2名,20年以上25年未満が3名,B群は5年以上10年未満が2名,10年以上15年未満が2名,20年以上25年未満が1名であった.作業療法士以外の保有関連資格数は,A群は,無し4名,1種1名,2種1名,3種1名,4種1名であった.B群は,無し2名,1種3名であった,保有資格内訳では,A群は公認心理師が3名,キャリアコンサルタント,産業カウンセラー,ジョブコーチが各2名,メンタルヘルス推進担当者が1名であった.B群は,ジョブコーチが2名であった.
【考察】
 両群の属性を整理した結果,所属先と保有資格において共通点と差異が確認された.A群は医療機関所属者が少なく,個人事業主や企業在籍者のいることが特徴であった.B群は医療機関所属者が最多であった.このことから,医療機関は施設の目的,作業療法士の役割が明確なため,保険診療外業務との接点を持ち難いことが挙げられる.A群は医療機関以外への所属により企業との接点が生じ,一次予防実践の機会につながった可能性がある.また,企業在籍者が1名と少なかったことは,作業療法士が企業に就職する門戸が開かれていないことの表れと考えられる.保有関連資格では,A群で資格を複数保有する者が多かった.そして,両群の共通資格にジョブコーチがあり,就労支援に関する資格は支援内容面で産業精神保健と共通点があることから,企業との接点を生むと考えられる. また,公認心理師やキャリアコンサルタント,産業カウンセラー等の資格は産業精神保健職が保有する資格であり,これらを併せて取得することは産業精神保健領域ならびに一次予防に携わる機会につながると考えられる.
 本調査では一次予防実践者のサンプルが乏しく,属性データを量で比較検討できていない.今後,より一次予防実践者等のデータを集め,直接的実践者と間接的実践者の共通点と差異,また,一次予防実践者と非実践者の共通点と差異についても明らかにし,作業療法士の産業精神保健領域参入の促進について検討したい.