第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-10] ポスター:精神障害 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-10-7] 共同作業時に重度統合失調症者の主観的健康状態の把握に努めることの意義について

大畠 久典1, 小林 健太郎1, 橋本 健志2, 田中 究1 (1.兵庫県立ひょうごこころの医療センター, 2.神戸大学大学院保健学研究科)

【はじめに】
 重度統合失調症者に対して訪問作業療法(以下OT)時に主観的健康状態を取り上げながら生活の気がかり事への対処を考え,共同作業をした結果,対象者はセルフケアに意識を向け,就労継続支援B型の利用を開始した.共同作業時に主観的健康状態の把握に努めることの意義について報告する.
【方法】
 一事例報告.事例に対して本報告に関する説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】
 A氏,50歳代,男性,統合失調症.一人暮らし.高校を卒業後,電気関係の仕事に就いたが,12年前の倒産を契機に生活保護を受給した.5年前に興奮状態と迷惑行為から非自発的入院をし,2年前には希死念慮から長期入院を経験し,その退院時に他職種による地域生活支援とともに訪問OTが開始となった.3カ月前に支援者への敵意と,不眠から当院に休息入院をした.X日に退院となり,訪問OTが再開となった.退院時の簡易精神症状評価尺度BPRSは30点,機能の全体的評定尺度GAFは54点,精神障害者社会生活評価LASMI下位尺度平均値はD/1.3,I/1.4,W/1.9,E/5.0,R/1.0点で,心理社会機能と生活機能に中程度の低下が認められた.健康状態自己評価尺度BsHAS体調,気分,人疲れ,楽しみ項目全て0点で主観的健康状態は低かった.
(経過)
 第1期:訪問OT再開導入期,X~X+100日.不安への対処と生活リズムを整えることをOT目標とし,週1回,1回あたり50分の頻度で,訪問毎にBsHASを行い,その結果と関係しているとA氏が思う生活での気がかり事を聞き,作業療法士(以下OTR)と散歩や体操をする内容とした.OTRは傾聴し,対処方法を一緒に考え,近隣の公園を約20分歩いた.ヘルパーと外出が何とかできたが,日中の活動量は低く,睡眠不足や易怒性が時に観察された.
 第2期:就労継続支援B型の利用を始めた時期,X+101~X+219日.頻回な不調の訴えとともにBsHAS結果は低値であった.楽しみの無さへの対処方法を共に考え,OTRとの散歩をした.X+114日にヘルパーとともに県をまたぐ外出をした.X+121日に就労継続支援B型内職作業を開始し,箸置きやホルダー作りをしたことやX+184日に訪問看護師に電話相談できたことをOTRに話した.
 第3期:健康自己管理を意識し,対処行動を始めた時期,X+220~X+360日.X+224日にバルブロ酸血中濃度が低値であったことを契機に服薬を忘れないための工夫を一緒に考えた.A氏は昼寝時や外出時に服薬忘れのあることに気づき,不調の訴えはその後減少した.X+240日には片道約50分を要する就労継続支援B型事務所への単独外出ができた.BsHAS評価の結果と関係しているとA氏思う気がかり事を聞き取ったことから,身体感覚に意識が向き,自己の身体不調への気づきが改善し,X+219日に訴えた下肢浮腫の治療のためX+331日に内科受診をした.
 X+360日,BsHAS得点は1点,GAF値は55点で主観的健康状態と社会機能に改善は認められなかったが,LASMI下位尺度平均値はD/1.3,I/0.7,W/1.2,E/5.0,R/1.0点で,対人関係や課題と労働の遂行レベルは改善した.
【考察】
 重度統合失調症者が健康状態の改善感を感じない時ですら,支援者が主観的健康状態の把握に努めることは,身体感覚に意識を向けさせ,セルフケアへの取り組みと,対象者との共同作業の遂行を促進し,対象者が課題や労働の遂行に向かう下支えとなる可能性がある.